私の油絵制作は、一枚を完成させるのに時間を必要とする。
油絵はゆっくりと納得いくまで重ねていける良さもある反面、
集中力が途切れると完成から遠のいてしまうこともある。
楽しみながら描けて完成したときは何より幸せだと感じるが、
描けない日も時にはある。
そんなときに私は自然散策に出掛ける。
制作で硬くなった頭と体の均衡を保つように。
土を踏む自分の足音で生きていることを実感できる。
鳥のさえずりや木々の揺らぎや陽光のきらめき。
自然は淡々と四季を移ろい、変わらずそこに存在する。
子供の時、自然が身近にあった私にとって、
制作の原点がそこにあるのを改めて感じる。
そんな自然をいつ頃からか写真に収めるようになっていた。
年齢を重ねた今の私自身のフィルターが投影され、
制作とは違う研ぎ澄まし方で感じていく。
帰り着くころには、
錆びついていた内面がほどけているような感覚がある。
心が満たされて、また制作に向かうことができる。
制作のバランスやリズムを保つことの難しさ。
今まで幾人の画家が同じことを考えたのだろうと思いを巡らし、
圧倒的な美しい自然を前に矮小さを感じている自分がいた。
写真は私にとって重要なツールだ。
モチーフを撮影するだけでなく、
感性を研ぎ澄まし、とどめる鍛錬をする媒体のようでもある。
幼い頃の純粋な感動や感性を大切に、そして忘れないために。
最終的にその感性が集約されて、また作品になっていく。
益村 千鶴 (ますむら・ちづる)
1972年山口県生まれ、93年比治山女子短期大学美術科卒業。東京都在住。2009年「選抜奨励展」(損保ジャパン東郷青児美術館)、14年,18年「前田寛治大賞展」(日本橋高島屋・倉吉博物館)、19年 個展「アートフェア東京」(Gallery Suchiブース)など、個展やグループ展、国内外のアートフェアに多数参加。20年6月13日~27日「Gallery Suchi 10周年記念展 -Rising-」に出展予定。
【関連リンク】益村千鶴 Gallery Suchi