[画材考] 書家:渡邉麻衣子「線のこと」

2020年05月01日 13:00 カテゴリ:コラム

 

長野県八ヶ岳原村別送にて

長野県八ヶ岳原村別送にて

 

デザインの世界で10年住んだイタリアミラノでは、よく車で近隣ヨーロッパの国を小旅行した。陸続きで国境を越えると建物の色調や石畳の色に変化が生まれ、そこで暮らす人々の色彩を捉えることが楽しかった。

 

日本に戻ってからも自ら運転する車で色々な場所へ行き、新しい発見や経験を楽しむ。筆や紙、墨、毛氈(もうせん)などの道具を積み、よく長野県八ヶ岳にある家族の別荘に滞在しながら書作をする。その時は、黒猫ノワールも一緒だ。濃墨のように真っ黒なノワールのしなやかな体の動きや長い尻尾を眺めながら書きたい文字の字形を模索したりもする。筆ですばやく猫を描いてみることもある。筆が紙と触れ描き出す線は、車と道、森の緑の中で黒猫が走る姿、日常の中で見た色々なものや経験したことなどが凝縮され紙面に現れていくと思う。

 

(左)黒猫ノワール (右)ジムカーナのコース(2019 年4月参加)

(左)黒猫ノワール
(右)ジムカーナのコース(2019 年4月参加)

 

作品《風雷》180×360㎝の大作は昨年の夏に長野で書き上げた。墨を含んだ大きな筆の重さを感じながら、身体全体を使いスピード感を意識した。車好きが高じて年に数回、ジムカーナという車の競技に参加している。パイロンの間を縫って走り、決められたコースで技術とタイムを競うのだが、無駄のない走行ラインは、側筆、直筆の妙と同様、芸術的で美しい。両者共、一回性のもので魅力的である。書に限らず、自分自身の呼吸、リズム、体調などと、置かれた環境(気候、温度、湿度など)との関係性の中で、ごくわずかなベストな状況でこそ、本物が生まれること。それを見極めるために日々鍛錬することが楽しく、またそれが更に前へ進む原動力にもなっている気がする。

 

《風雷180x360cm 2019年 誠心社現代書展出品作。座・高円寺にて招待出品(2019 年12月2日~25日)

《風雷》180x360cm 「2019年誠心社現代書展」出品作。座・高円寺にて招待出品(2019 年12月2日~25日)

 

《陽》半紙サイズ 「二〇二〇年誠心社現代書展」上野の森美術館ギャラリーに出品(1月18日~23日)

《陽》半紙サイズ 「2020年誠心社現代書展」上野の森美術館ギャラリーに出品(1月18日~23日)

 

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渡邉 麻衣子(わたなべ・まいこ)web近影
1975年東京都生まれ、誠心社理事長。女子美術大学付属中学・高等学校卒。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒。2000年イタリア政府給費生に選出されミラノ工科大学留学。01年ミラノにてデザイン事務所 M+K DESIGN 設立。以降10年間滞在しプロダクトデザイナーとして照明器具デザイン開発に従事。在伊中も日本の書展へ毎年参加、入賞受賞多数。
【関連リンク】渡邉麻衣子(誠心社)


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