イーゼルには、塗りつぶした絵がある。何度も描き直している為、ぬりかべになっている。
搬入間近はドン詰まり。ぬりかべ君からいつも逃げたいと思っている。あぁ……私は絵を描くことによって何かに救われているのか? それともただ翻弄されているだけなのだろうか……? なんてね。制作中は苦悩の連続。イーゼルの前に立つ勇気を、誰か僕に下さい。
「絵を始めたきっかけは?」……何だろう?……。
「やめない理由は?」……やめない?……それはきっと、少年期に受けた忘れることのできない敗北感。
小学生の頃に絵画教室で描いた水彩画。右下の坊ちゃん刈で目のくりっとした彼は、神童の様に絵が上手かった。衝撃的だった……絶対に勝てない。彼への畏怖と、自分への絶望感。悔しくて悔しくてたまらなかった。
あれから長い歳月が過ぎた。彼の時間はあの時の少年のままで止まっている。
もしも彼が生きていたら、今どんな絵を描いていたのだろうといつも思う。私がどんな絵を描いてみせようが、彼に追いつくことは永遠にできない。
少年期に胸に刻まれた挫折と、僕の中で生き続ける彼。才能ある作家にひどく打ちのめされても、あの時の挫折感があるから、今はそれを情熱に変えることができる。
水彩画に目を向ける。「そろそろぬりかべに、立ち向かえよ」と私に言ってくる。あの頃の僕と彼が。
松原 修平(まつばら・しゅうへい)
1982年千葉県生まれ。現在第一美術協会会員。
2007年第一美術展初出品、以降毎年出品を続け、同展にて12年第一美術作家賞、15年文部科学大臣賞、17年優秀賞受賞。
5月18日(月)~30日(土)、銀座・ギャラリー惣にて個展開催。
【関連リンク】松原修平(Instagram)