[画材考] 洋画家:早矢仕素子「アトリエの刻」

2021年02月15日 12:00 カテゴリ:コラム

 

《その声を聞いた物は生きる》を描きながら

《その声を聞いた物は生きる》を描きながら

 

アトリエに巣篭もり。 
今この状況下でなくても私は常に巣篭もり状態が好きだ。本当の意味で言えば、社会からの逃げ場なのである。聖書を読みそのなかの言葉から主題を探し、そして何もないところから絵の組み立てが始まる。「何処の教会ですか?」とよく聞かれる。この世の何処にも存在しない空間に、何処にも存在しない建物を配置してゆく。私の妄想なのだ。

 

自分で設計した小さなアトリエは、イメージ的には修道士の独居部屋で、東向きに開いた窓からほんの少しの光が差し込むだけである。特に飾りもなく、外壁にあたる木の枝の音がほんの僅かに聞こえるだけの空間。ミサ曲をかけ、珈琲を用意したら、そこから私だけの時間が始まる。

 

以前にサン・マルコ修道院で見たフラ・アンジェリコの《受胎告知》が忘れられず、これを目指そうと、無謀にも画室作りから考え始めたのだ。私は直接的な聖画は描かない。何故なら私は神父でも牧師でもないから。ただ一人のキリスト教信者であり、一人の彷徨える子羊だからである。弱い人間だから篭って自分の世界に入り込み、絵具を使って描画してゆく。そしてその絵の空間に自ら逃げ込むのである。

 

古典的なテンペラ、油彩を好むのは、やはりその材料自体が魅力的だからである。テンペラの光と時間を吸い込む質感、油絵具の透明感。これが与えられている間は、聖書が語る言葉に耳を傾け、静かに絵を描いていけるだろう。
巣篭もりをして…

 

《風の記憶ー扉は開いているかー》72.7×50.0cm

《風の記憶ー扉は開いているかー》72.7×50.0cm

 

《風の記憶ー壊すためではなく、造り上げるためにー》116.7×60.0cm

《風の記憶ー壊すためではなく、造り上げるためにー》116.7×60.0cm

 

《風の記憶ー見よ、新しいことをわたしは行うー》90.9×60.6cm

《風の記憶ー見よ、新しいことをわたしは行うー》90.9×60.6cm

 

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早矢仕 素子(はやし・もとこ)W近影
1955年東京都生まれ。1980年武蔵野美術大学大学院修了(修了制作優秀賞)。1995年青木繁記念大賞展優秀賞。1997年安井賞記念展独立展中山賞。2001年独立展高畠賞。2003年女流画家協会展損保ジャパン美術財団奨励賞。現在、独立美術協会会員、女流画家協会委員、日本美術家連盟委員。2月22日(月)〜27日(土)銀座・光画廊にて個展開催予定。

 


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