”描くことで世界を見つめる”
「一度決めたことは、10年は続けなさい」幼い頃両親はそう口酸っぱく言っていた。きっと何をするにも少し時間がかかる山﨑の性格を分かってのことだったのだろう。
そんな少女が選んだのは絵という道。最初は好きだから、というよりも両親の教えがあったから10年は続けようという気持ちだった。高校生から美術予備校に通い始め、その後美大受験用のクラスに入る。
周りはデッサンも色遣いも段違いに上手い子ばかりで、敵わないと思った。なんとか近づきたい一心でひたすら描いた。
努力の甲斐あって京都造形芸術大学へ進学。そこで出会ったのは当時学長を務めていた日本画家・千住博氏だった。公募展は落選続き、講評会でもあまり良い評価をもらえなかった頃で、絵の道は向いていないのかもしれないと自信を失っていた。
そんな山﨑に千住は「魅力的なものがたくさんある」と声をかけ、若手グループ展『グループホライゾン』に誘ってくれた。それが転機となり、文部科学大臣賞など数々の賞を受賞するようになる。
山﨑は花や木々といった自然をモチーフに作品を描いてきた。「ただ美しいから描いているのではありません。植物を育てるとき間引きをするように、私たちの世界もまた見えない多くの犠牲によって成り立っています。自然を描くことはそんな今の世界をいつもとは違う視点から見ることだと思っています」
未知のウイルスの出現に度重なる自然災害、一見作品とは関連が無いように見えても、様々な外的、内的要因が絡み合って山﨑の筆へ伝わっている。
絵を始めて22年。10年は続けようと思っていたことがいつしか人生そのものになった。絵が多くの人との出会いをもたらし、世界を見る角度を変えた。「今世界で起こっていることを見つめ、それを後世に伝えられるような作品を描きたいです」
画家の見つめる先は現在のようで、遠い遠い未来。
(取材:牧口真和)
山﨑 鈴子(Yamazaki Reiko)
1983年東京都生まれ、2014年京都造形芸術大学大学院芸術研究科芸術専攻博士課程修了。2011年第26回国民文化祭京都2011美術展日本画部門文部科学大臣賞、京都花鳥館賞奨学金2011優秀賞受賞。3月11㈭~21日㈰、ギャラリー大雅堂(京都)にて個展開催予定。