”眠っていた感覚を呼び起こす”
乾漆造形や変り塗りの技法を研究、制作し続ける漆芸作家の佐々木岳人は、作家生活10年目の節目を迎える。最新作は、本物と見紛うかのように精巧に作られたピストル。その背景には花言葉で平和を意味する雛菊があしらわれている。
幼少期はヒーロー戦隊が登場する特撮ドラマを見て育ち、段ボールを用いてヒーローの武器を立体的に作り上げるような少年だった。高校卒業後、彫金や鋳金、陶芸などを扱える工芸科を志望し、東京藝術大学美術学部工芸科へ進学。2年時に選択授業で触れた漆が作家活動の軸を決める、未知の素材との出会いとなった。漆芸研究室に所属後は伝統的な技法の習熟に専念しながらも、自身の表現を模索していた。
そのような折り、柴田是真が江戸時代末期に手掛けた漆塗りで金属や焼き物などの異素材に見せる精巧な工芸作品に衝撃を受ける。「是真のものづくりにおける遊び心や粋な部分に惹かれました。そのような漆の先達の真似をしても太刀打ちできない。僕は現代の身のまわりのものを作って新たな価値を見出そうと思ったんです」
その後佐々木は、漆で私たちが日常的に使うファスナーで閉じられた箱を創作。引手を持てると思いきや蓋の上部を開くと更に蒔絵で描かれたファスナーに出会う構造は人々を驚かせた。このシリーズの作品を目にした指導教授からは、「とりあえず10年続けてみなさい」と背中を押された。制作を続ける中で、佐々木は自身の持ち味は人間の「心理的盲点」に着目し、想像力を働かせて形にすることだと気づく。本来は武器として使用する目的を持つピストルや刀といったモチーフは、佐々木が漆で両者を手掛けると形としての美しさを再認識させられる。
見逃し、眠っていた感覚を呼び起こし続ける佐々木の作品は、これからも人々の想像力を解き放っていくだろう。閉じられたファスナーの引手を持って開けるかのように。
(取材:岩田ゆず子)
佐々木 岳人(Sasaki Gakuto)
1983年秋田県生まれ、2011年東京藝術大学大学院美術研究科工芸専攻漆芸修了。修了制作大学美術館買い上げ賞受賞。現在、東京藝術大学工芸科漆芸研究室非常勤講師 漆工担当勤務。3月24日~ 30日日本橋髙島屋S.C.本館6階美術工芸サロンにて個展「佐々木岳人 漆芸展―暁に光る―」開催。