[フェイス21世紀]:大山 智子〈洋画家〉

2021年05月20日 12:00 カテゴリ:コラム

 

”その空間を、豊かにする絵画”

 

博士課程成果発表展にて 撮影:

博士課程成果発表展にて 撮影:髙原陽介

 

君のこの絵は洒落てるね――

 

山本治からの講評は、絵画に抱いていた厳かなイメージを打ち砕くほど衝撃的だった。以来「洒落てる絵」は、大山智子の一つの指針だ。

 

両親は共にビッグバンドのプレイヤー。自分の手には楽器より絵筆が馴染んだが
「カフェで流れるジャズやボサノバのように、そこに存在することで空間を豊かにする作品を目指しています。」
そんな今日の想いは常に傍らにあった軽快な音楽を礎とするものだろう。

 

日本大学芸術学部に進学すると、大庭英治や福島唯史をはじめ、良い影響を与えてくれる先生や友人と巡り会い、油の世界へのめり込んでいく。写実だった表現は変容し、学部3年の頃、大きな筆と三原色で色面的に描いた裸婦に手応えを感じた。厚塗りと薄塗りを駆使して生まれる油ならではの奥行を、即興的タッチ、グレートーンを基調とした色遣いで画面に配する作風は、この日を境に深化を続けている。

 

そして、マティスとド・スタール、二人の巨匠その作品との邂逅が、進むべき道の標となった。「マティスとボナール」展で観たマティスのデッサン、初めてのパリで観たド・スタールのオーケストラや屋根――なんて洒落てるんだろう。自分も、自分の絵を描きたい。本物との出逢いを重ねる内、決意は固まった。

 

《Jazz Orchestra》2020年 310×650cm

《Jazz Orchestra》2020年 310×650cm

 

大学院修了後は、震災の傷跡深い故郷でアートセラピストとして4年間勤務。助手の声がかかり日芸へ戻ると博士課程にも進んだ。論文のテーマは、ド・スタールの絶筆《コンサート》。昨年末の成果発表では同サイズ3×6.5mの大画面に、自身にとってのコンサート、両親のビッグバンドを描き、日芸での研究と制作の集大成を披露した。

 

今春からは再び地元に戻り、一歩を踏み出す。5月には京成百貨店で個展も控えている。響き合う筆触と色彩は、大山の歩みと共に、心地よいハーモニーを奏でていく。

(取材:秋山悠香)

 

《Jazz Orchestra,Gray》2020年 112.0×145.5cm

《Jazz Orchestra,Gray》2020年 112.0×145.5cm

 

《Cagnes sur Mer》2021年 100.0×72.7㎝

《Cagnes sur Mer》2021年 100.0×72.7㎝

 

(左)《Cagnes》2019年 45.5×33.3㎝ (右)《La Plage》2019年 24.3×33.4㎝

(左)《Cagnes》2019年 45.5×33.3㎝ (右)《La Plage》2019年 24.3×33.4㎝

 

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大山 智子(Oyama Tomoko)

 

1985年茨城県水戸市生まれ、95年より約1年間アメリカ・サウスカロライナ州に居住し、サマーアートスクールに参加。2020年12月日本大学芸術学部ギャラリー棟A&Dギャラリーにて博士課程創作成果発表展を行い、本年3月日本大学大学院芸術学研究科博士後期課程芸術専攻修了。13年に銀座みゆき画廊で初個展を行い、以後都内を中心に個展・グループ展多数。5月27日~6月2日水戸京成百貨店にて「大山智子展―南仏の光と香り」、7月に銀座ギャルリ・サロンドエスにて太田冬美・嶋村有里子との3人展を開催予定。

 


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