一昨年オーストラリアに講演旅行に行った時、一つの発見をした。講演会やワークショップ、展覧会のオープニングなど、公共機関で行われる集まりの始めに「ランドアクノリッジメント」(land acknowledgement)が読み上げられる。内容は先住民が近代以前にその土地(land)に生きていたことを認め(acknowledge)、敬意を払うというものだ。
先住民がファースト・ネーションズとして認められているカナダでも定例化しいるが、アメリカではまだ珍しい。コロナ禍で盛んになったウェビナーでコロンビアとNY大学が取り入れ始めていることに気づいた。
そして、さる5月11日、メトロポリタン美術館は、正面玄関の一角に「ランドアクノリッジメント」の銘板を設置した。
いわく「メトロポリタン美術館はレナペホーキング部族の祖地であり、多くの先住民部族の歴史的集会交易地であるレナペ居住地に位置する。私たちは過去・現在・未来のすべての先住民共同体がこの地と継続的かつ根源的関係を持つことを認め敬意を表する」。
近代の物語の多くが、アメリカ先住民の抑圧をも含めて、覇権誇示で勝利した者の論理を優先させてきた歴史を考えると「土地の確認」は重要な「仕切り直しの言葉」である。
ただし、その言葉をどう形にしていくのか。それこそが真の課題だろう。
ここで興味深いのは、先住民美術専任キュレーター第一号のパトリシア・マロキン・ノービーとアメリカ部門キュレーターのシルビア・ヨウントが銘板設置を先導した点だ。
アメリカ部門には2018年から先住民美術の展示室があったが、今春新任のノービーが抜本的な展示替えを行った。
入口外側には、先住民の継承するクラフト(舞踊服)や伝承(ドリームキャッチャー)を先住民系のコンテンポラリー作家が解釈した作品2点を配し、入り口内側にはコロナ禍のNYの環境改善のエピソード(ハドソン川にクジラが登場)を中心に、歴史のブリコラージュをした陶器の現代美術を展示。さらに「土地の確認」を具体化させ、「土地と水」を奪われた先住民の文化を現在の社会との関係や環境問題をもにらんだ視点でキュレーター・ステートメントとして掲示している。
展示には、いくつもの試みがなされている。現代美術の取り込みはその一つだが、地図の廃止も重要だろう。本展示ではウッドランド、北西海岸、北極、プラトー、プレーンズ、南西部、カリフォルニア+グレートベースンの7地域から50以上の部族の作品が展示されている。地図は早わかりには便利だが、近代化や植民地化における空間管理のツールだったことを思えば、ひとまず地図を括弧入れするのも一つの戦略なのだろう。
作品は、寄贈されたチャールズ+ヴァレリー・ダイカー・コレクションが中心で、多岐にわたる媒体のそれぞれが非常に質の高い表現になっている。解説パネルでは、そこここに部族出身の関係者の言葉が使われ、「当事者の言葉」の正当性が主張されていた。
≫ 富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] アーカイブ