[フェイス21世紀]:荻野 夕奈〈画家〉

2021年09月06日 10:00 カテゴリ:コラム

”見つめ続ける。呼吸し続ける。”

大田区内のアトリエにて 7月29日撮影

大田区内のアトリエにて 7月29日撮影

 

目が覚めるほど眩しい水色。女性が横たわり、色とりどりの花がちりばめられている。荻野夕奈が描くモチーフ群は今にも動き出しそうで、見る者を包み込むかのようだ。

 

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《P-111120_1》2020年 130.3×194.0cm 油彩、キャンバス

 

独立美術協会会員だった父の背中を見て育った。ひたすらキャンバスに向かう姿に影響され、「私も油絵をやりたい」と伝えた荻野は、小学校3年生から絵画教室に通い始める。難しい油絵の技法は少女の心に火をつけ、じっと“物”に見入って描くことにのめり込んでいく。半年かけて牛骨を描き切った時の大きな達成感は今も忘れられない。荻野にとって油絵を描く時間は、呼吸するように自然なことだと気づいた。

 

そんな少女は、女子美術大学付属高等学校に入学し、その後東京藝術大学油画専攻へ進学した。先輩が映像で表現する姿勢に刺激を受け、卒業制作では長時間同じ風景を映し続ける映像作品を提出。制作道具を絵筆からカメラに替えても常に“物”を見る画家の視点を忘れなかった。

 

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(左)《p-300519》2019年 91×91cm 油彩、キャンバス (右)《p-160919_1》2019年 53×35cm 油彩、キャンバス

 

自身の筆致を見せられる技法を考え、大学院修了制作では油絵へと戻っていく。襖絵の構図を用いながら木蓮やハナミズキを描き、周囲から好評を得たが作家は満足しなかった。それから下地は水彩のように薄塗りし、花や蝶、色彩が舞う表現に、近年は人物も加わった。そこには、画家生活15年目を迎えた荻野の心境が伺える。「私は今を生きる女性の気持ちに立って、強くしなやかな“物”を見せたいと思っています。社会性を取り払った普遍的な“物”を描きたい」。

 
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荻野がキャンバスに一筆入れた瞬間、絵画に新たな息が吹き込まれ、水を得て喜ぶ花のようにいきいきと輝き始めた。そして、大きな瞳でこちらをまっすぐに見つめながらふと呟いた。
「やっぱり私にとって油絵を描くことは、呼吸することなんです」。

(取材:岩田ゆず子)

 

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アトリエは、大田区のART FACTORY城南島内に構えている。取材時は約10点もの大作を同時並行で制作していた。

 

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荻野 夕奈(Ogino Yuna)

 

1982年東京都生まれ、2007年東京藝術大学大学院美術研究科修了。21年に六本木ヒルズA/Dギャラリーで個展、日本橋三越本店、ニューヨークのMizuma &Kipsなどグループ展多数。21年1月に自身初となる作品集『FLOWER &BODY』を刊行。

 
荻野夕奈 ウェブサイト


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