”迷いさえも絵に変えて”
子どものころに応募した「読書感想画」のコンクールが印象に残っている。感じたことを言葉ではなく絵で表現する面白さを通じ、頭に浮かんだ空想を表現するのに夢中になった。
絵を描き続けたい。いつしかそう思うようになっていた。
だが裏腹に、将来への不安もまとわりつく。このまま絵を描いて生きていくことはできるのか……もやもやした思いを抱えた大学時代、空想だけで描いてきた世界に実感が欲しくなった。
高校生の頃に存在を知って以来、惹かれ続ける洋画家・遠藤彰子の絵がヒントをくれた。迷いが生じた時には必ず画集を開くほどに、自分の中心軸にしていた。
特に感銘を受けたのは《部屋》という作品。キャンバスに区切られたたくさんの小部屋に、その日の出来事や過去の記憶を描く手法は刺激的だった。さらに、この作品を妊娠中のつわりに苦しみながら描いていたという遠藤に、思い悩む自分の姿が重なった。
――感情をモチーフに変換して、自分の置かれている“現状”を描きたい――
渦巻く思いを、買い集めたレコードや教職のための参考書に込め、絵の中に描いてみた。“生活”を取り巻くアイテムに感情を託すと、モチーフが意味を持ち始める手応えがあった。幻想的でありながら、日常に根差すリアルな感覚が同居する、梶村にしか描けない不思議な世界が生み出された。
今春の昭和会展では東京海上日動賞を受賞。授賞式に参席していた遠藤が背中をやさしく叩いて祝福してくれたのが純粋に嬉しかった。悩んでいた時期を越え、絵を描き続けたいという気持ちはいっそう確かなものになっている。
不安が完全に消えたわけではない。しかし、そうした感情さえも絵に変えて、梶村は自分にしか表せない世界を物語っていくだろう。
それがたとえ、どんな世界であったとしても。
(取材:原俊介)
梶村 帆香(Kajimura Honoka)
1997年京都府生まれ。武蔵野美術大学在学時から第5回、6回未来展に出品。2020年同大卒。卒業制作が優秀賞となる。21年第17回世界絵画大賞展では優秀賞、22年第57回昭和会展で東京会上日動賞をそれぞれ受賞。今後5月25日(水)~6月7日(火)に開催される第59回太陽展(銀座・日動画廊)に出品予定。