[フェイス21世紀]:岡田 杏〈彫刻家〉

2022年10月04日 12:00 カテゴリ:コラム

彫刻という言葉で言い切る

 

自宅のアトリエにて(9月1日撮影)

自宅のアトリエにて(9月1日撮影)

 

「彫刻って大変だな」

 

中学生のころ、木彫りでリンゴの形を作った時の率直な感想だった。岡田杏の彫刻との繋がりはそんな一言から始まる。

 

高校の美術部では、もっぱら絵ばかり描いていた。だが、時間が経つごとに、周囲と自分の画力を比べるようになってしまう。心が折れそうになった時、先生の勧めで再び彫刻に取り組む機会が訪れた。

 

敬遠していた彫刻に取り組んでみると、素材に触れながら形状を整えていく感覚に目の覚める思いがした。出来上がった首像が先生に褒められたことが、彫刻にのめり込むきっかけとなった。

 

アトリエ風景。自宅の一角に建てられたアトリエは、家族と協力して一から木材や鉄パイプを組み立てて作ったという。制作に使う用具や機材も多くは周囲から譲ってもらったもの。多くの人に支えられてきた岡田自身を象徴するような場所になっている。

アトリエ風景。自宅の一角に建てられたアトリエは、家族と協力して一から木材や鉄パイプを組み立てて作ったという。制作に使う用具や機材も多くは周囲から譲ってもらったもの。多くの人に支えられてきた岡田自身を象徴するような場所になっている。

 

進学した金沢美術工芸大学では、関東とは異なる環境に大きな刺激を受けた。

 

個性的な先生たちからは、コンセプチュアルな現代美術の方法論を学んだ。彫刻はただ台座の上に置いて終わりではない――斬新な考え方は、何をしてもいいという心のゆとりをくれた。

 

女性にも負担の少ないテラコッタによる塑像を専攻することを決心した岡田は、釉薬やロクロなど、陶芸技法を積極的に研究。そこで培った技術を取り入れたことで、白を基調にした表面に紅を差し、独自の血色を持たせる作風を見出した。

 

《ミタマ》 2022年 石膏、陶、アクリル、貝

《ミタマ》 2022年 石膏、陶、アクリル、貝

 

素材の感触を大切にしながら作られる岡田の作品は、堅実な写実に基づきながらも、謎めいた佇まいが印象に残る。多くを語り過ぎない造型、意表を突いたモチーフの組み合わせは、観る者それぞれに物語を喚起してやまない。

 

「自分の中で蓄積してできた世界観を彫刻の形で表現したいと思っています」

 

(左)《観測》 ●●●年 ●●、●● (右)《景色》 2021年 陶、木、貝

(左)《観測》 2022年 陶
(右)《景色》 2021年 陶、木、貝

 

自分の中にあるものを、彫刻という言葉で言い切るため、貪欲にインプットを続ける岡田。いまは日本と西洋の造形の狭間で何をすべきかを自問するなかで、能面に代表されるような幽玄の世界に関心を抱いている。

 

より深みのある作品を求め、岡田の手は休まることがない。

(取材:原俊介)

 

天井から差す自然光は、アトリエ全体をやさしく照らす。

天井から差す自然光は、アトリエ全体をやさしく照らす。周囲は緑に囲まれ、静かで落ち着いたこの場所で岡田の制作は行われている――

 

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岡田 杏(Okada Kyo

 

1990年埼玉県生まれ。2018年金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科彫刻修士課程修了。19年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻研究室研究生修了。16年「国際瀧富士美術賞展」特別賞、19年「第69回埼玉県美術展」埼玉県美術家協会賞。今後複数のグループ展への出品を予定。

 


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