〈ハッピーエンド〉をすくいだす
日々の生活で見逃してしまいそうな瞬間に宿るきらめきを、シンプルな造形で表現する秋葉麻由子。
岩絵の具や箔といった日本画の質感を活かしたあたたかみある作品は、創画展を中心に注目を集めている。
両親兄妹全員が医学の道へ進んだ医者一家の出身だが、秋葉はただ1人美術に熱中。当初は親の計らいで通い始めた地元の絵画教室も、気が付けば4歳から高校卒業まで習っていたという根っからの美術少女だった。
それでも、初めての美大受験では志望校にことごとく落ちるという苦い経験をする。落ち込んでいた折り、武蔵野美術大学教授・山本直彰との出会いがあった。
講演会で山本にかけられた言葉から秋葉は奮起。努力の末に憧れだった武蔵野美大へ編入を果たす。
大学で再会した山本は人間味にあふれ、日常話を愛する人柄。講義の後には居酒屋へ連れだって、とりとめない会話を交わすのが何より楽しみだった。
お酒を飲みながら交わす何気ない言葉やさりげない振る舞いに息づく生の感触は、秋葉の創作にも刺激をくれた。
「人をそっくりそのまま描くことより、どんなことをしているか? ということに関心があります」
人の顔かたち、服装を簡略化するのは、一瞬の何気ない仕草を際立たせるため。対象を見つめる鋭く細やかな秋葉の観察眼によって、スナップ写真のように日常の一場面を切り取ってみせる。
元々は誰を描いても自分の顔に見えてしまうのが嫌だという理由から編み出した表現だったが、独自に抽象化した人物像には、写真とはまた異なる普遍性と魅力が宿る。
「大変なことがたくさんある暮らしでも、笑って終えることができればいいと思います」
日常に〈ハッピーエンド〉を見つけ出す。簡単なようで難しい秋葉の試みは、ありふれた日々の中で見逃されがちな生の輝きをすくいだしてくれる。
(取材:原俊介)
秋葉 麻由子(Akiba Mayuko)
1995年栃木県生まれ。2019年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻日本画コース修了、「第46回創画展」初入選。20年「第46回東京都春季創画展」初入選。ほか個展、グループ展多数。現在武蔵野美術大学日本画学科助教。4月24日(月)~29日(土・祝)銀座・スルガ台画廊にて「秋葉麻由子個展 ハッピーエンド」開催。
【関連リンク】秋葉麻由子公式ホームページ