[フェイス21世紀]:山田 雄貴〈日本画家〉

2023年06月05日 12:00 カテゴリ:コラム

 

”太古の創造に挑む”

 

東京藝術大学内のアトリエにて(5月2日撮影)

東京藝術大学内のアトリエにて(5月2日撮影)

 

生まれも育ちも荒川区。父の仕事場は入谷で、上野は幼い頃から親しんだ場所だ。

 

ある日ふと目にした奇妙な建物。聞けばそれは大学だという。こんな場所に誰が通うんだろう? 幼心に疑問を抱いたその学び舎に、かれこれ14年も籍を置くとは想像だにしなかった。

 

「ついつい、沢山の色を並べてしまいます」と話す藝大内のアトリエ風景。「絵具を溶くときは絶対に”中指”で」、というのは、師・手塚雄二からの教え。

「つい、沢山の色を並べてしまいます」と話す藝大内のアトリエ風景。「絵具を溶く時は絶対に”中指”で」、というのは、師・手塚雄二からの教え。

 

美術に関心を寄せたのは高校生の頃。進路に悩んでいた時、美大の存在を知ったことがきっかけだった。

 

予備校では当初彫刻を選ぶも肌に合わず、繊細な色彩に惹かれ日本画へ。「自分は絶対藝大に受かる!」、根拠のない自信を胸に、二浪の末見事目標を果たした。

 

大学院では手塚雄二に師事し、院展に出品。直感的に選んだ日本画の道だったが、その伝統技法や表現の奥深さにのめり込み、自らの画風を模索し続けてきた。

 

 博士2年の時、国立科学博物館の「大英自然史博物館展」で始祖鳥の化石と出会った。約1億5千万年前に生息した最古の鳥類化石に、かつてない衝撃と感動を覚えた。

 

「遥か昔の自然物で、何故これほど抽象的、絵画的なのか。意図的に見えない画面を目指す中で、勝ち目がないとさえ感じました」。

 

既に作品として成立するほど格好良い……それでもどうにかこれを絵にできないかと挑んだ作品が、その年、気鋭日本画家の研究発表会「有芽の会」で最高賞を受賞した。以来、古代生物やその化石は、山田の作家性を象徴するモチーフの一つとなっている。

 

《始祖鳥》2017年 90.9×72.7㎝ 楮紙、岩絵具 「第32回有芽の会」法務大臣賞

《始祖鳥》2017年 90.9×72.7㎝ 楮紙、岩絵具「第32回有芽の会」法務大臣賞

 

「描くという行為そのものが好き。手作業だからこその、繊細で物質的な作り込みで、二度と描けないものを描いていきたいです」。

 

個展にグループ展、月刊誌『更生保護』表紙絵も担い、制作と発表に追われる日々。「生きた証を残せることは、もの作りをする人間の特権」、そう語る山田の目標は、いつの日か己の絵が国立館に収まること。時代を超えて人の目に、心に触れる作品を――今はただ、ひたむきに筆を執る。

(取材:秋山悠香)

 

(左)《太古のフォルム》2018年 72.7×90.9㎝ 楮紙、岩絵具 (右)《巡る−丑−》2022年 35.0×35.0cm 『更生保護』表紙絵

(左)《太古のフォルム》2023年 31.8cm×41.0cm 麻紙、岩絵具
(右)《巡る−丑−》2022年 35.0×35.0cm 『更生保護』表紙絵

 

《花の肖像》2022年 100.0cm×180.0cm 楮紙、岩絵具

《花の肖像》2022年 41.0cm×60.6cm 麻紙、岩絵具

 

ライフワークとして取り組む、薔薇の写生。「”描く”ことは、ある意味で”祈り”の行為だと思っています。」 藝大アートプラザ「藝大神話―GEISHIN」には、スケッチと本画、全て薔薇を描いたものを出品する。

ライフワークとして取り組む、薔薇の写生。「”描く”ことは、ある意味で”祈り”の行為だと思っています。」 藝大アートプラザ「藝大神話―GEISHIN」には、スケッチと本画、全て薔薇を描いたものを出品する。

 

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山田 雄貴(Yamada Yuki)

 

1989年東京都生まれ、2019年東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。14年第69回春の院展及び再興第99回院展初入選、20年第75回春の院展奨励賞受賞。他、17年第22回松伯美術館花鳥画展大賞、第32回有芽の会法務大臣賞等受賞多数。
現在、日本美術院院友、東京藝大テクニカルインストラクター。
6月7日(水)~13日(火)神戸阪急新館7階美術画廊「山田雄貴 日本画展―まぼろしの色―」開催、7月1日(土)~23日(日)藝大アートプラザ「藝大神話―GEISHIN」(後期)出品予定。

 

【関連リンク】山田雄貴 

 


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