[画材考] 彫刻家:櫻井かえで「チェンソー」

2023年06月22日 15:25 カテゴリ:コラム

 

20年来の相棒

20年来の相棒

 

 

個展の搬入が迫った2月のある日、愛用の電動チェンソーが静かに壊れた。

 
 

《ラクダと観覧車》 2023年 H207×W125×D260 cm 楠 撮影:柳場大

《ラクダと観覧車》 2023年 H207×W125×D260 cm 楠
撮影:柳場大

首を伸ばして座っている大きなラクダの木彫を制作していた。
ラクダの細長い首や顔の形を決めかねていた。
その日は意を決して、チェンソーの電源を入れた。

なぜかチェンソーは動かなかった。

 

電源を入れ直し、部品を組み直したりしたが、うんともすんとも言わなかった。
電動工具が壊れる時は異音や煙が出る事が多いが、今回は何の前触れもなく静かに壊れた。不思議な感じだった。しばらく呆然としていたら、ふとこのチェンソーを購入した日のことを思い出した。

 

 

20数年前、美大の4年生の時だった。業者の方が校門まで届けてくれて、新品のチェンソーを受け取った。ドイツ製でオレンジと白の配色がお洒落で、直ぐに気に入った。それからは制作に欠かせない道具として活躍してきた。
木彫制作にはチェンソーや鋸(のこぎり)、のみや鉋(かんな)など様々な道具を使用する。
チェンソーは木材の切断や荒く削ることに適した道具だ。
仕上げはのみで彫ることが多くなるが、チェンソーで削った形も完成まで残している。
モチーフにしている動物の自然な形に調和する感じがするし、グズグズと迷った痕跡をズバッと削り落としてくれる消しゴムのような役割もあるのかも知れない。

 

 

今度新しく購入するチェンソーはこれから20年長持ちしてくれるのだろうか。
20年後の私はどのような作品をつくっているのか思いを巡らせる。

 

 

左「ラクダと観覧車と魚のなる木展」会場風景 ギャラリーせいほう 右作品《Leafish》 2022年 H208×W160×D150 cm 楠 右《ゴリラはホエールウォッチングへ(ゴリラ)》2021年 H208×W140×D180㎝   楠 ギャラリーせいほう 撮影:柳場大

左「ラクダと観覧車と魚のなる木展」会場風景 ギャラリーせいほう
右作品《Leafish》 2022年 H208×W160×D150 cm 楠
右《ゴリラはホエールウォッチングへ(ゴリラ)》2021年 H208×W140×D180㎝ 楠 ギャラリーせいほう
撮影:柳場大

 

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櫻井 かえで(さくらい・かえで)
web櫻井近影KIMG1368~2
1974年東京都生まれ。2002年武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程 美術専攻彫刻コース修了。第13回KAJIMA彫刻コンクール銅賞受賞。01年ギャラリーせいほうで初個展を開催(以後07年から2年ごとに開催)。「Sculpture Selection」日本橋高島屋、「新収蔵品展」佐久市立近代美術館 、越後妻有アートトリエンナーレ2015など個展やグループ展で作品発表。2023年12月新宿高島屋、 24年1月横浜高島屋にて個展予定。

 

【関連リンク】櫻井かえでInstagram

 


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