広島の山間部で生まれ育った私は、山のある田舎の風景や、素朴な花を描いていました。
画学生時代を過ごした京都でも、生活環境には山も川も身近にあり、題材に事欠くことはありませんでした。豊かな自然、特に山々が見える環境で生活を営むことは、私の制作に必要不可欠な精神的画材であったように思います。
しかし、15年前結婚を機に人生初の東京在住となり、窓の外に山は見えなくなりました。東京にも公園や緑道、街路樹や様々な緑化で自然はありますが、やはり都心部に山はありません。
当所は帰省する度に写生をためて、東京のアトリエで作品に仕上げていましたが、いつしかその制作スタイルに疑問を持ち、今ここでしか描けない画を描くことを望むようになりました。
そんな思いで制作を続けていた頃、突然娘の希望で保護犬を迎えることになったのです。またしても人生初となる犬のいる生活が始まり、毎日が初めての連続でへとへとになりながら過ごしていました。
9カ月で迎えた元保護犬も、今年で4歳です。
気づけば、愛犬の散歩で偶然出会った花や、愛犬を通して見えてきた東京の何気ない風景を描いています。画室では、制作の傍らにいつも愛犬が寝ていますし、手足からは大地の匂いがします。何より、言葉とは別のツールで話しかけてくる犬との交流は、山や花と心通わす時と同じ、自然界との交流そのものだと感じています。
今、我が家の愛犬は制作に欠かせない存在となっています。
矢吹 沙織(やぶき・さおり)
1978年広島県生まれ。98年広島比治山女子短期大学(現比治山大学短期大学部)美術科日本画卒業、2000年京都芸術短期大学(現京都芸術大学)日本画専攻科修了。
ギャラリー杉野ほか各地で個展・グループ展多数。17・20・21年「Artist Group-風-大作公募展」入賞。
8月1日(火)~13日(日)佐藤美術館「第3回NIHONGA○-en-」(同時開催:8月7日(月)~13日(日)ギャラリームサシ「NIHONGA〇‐en‐小品展」)出品。
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