このところヨーコのことをよく考えている。
きっかけは、最近、急に小鳥のさえずりを早朝に聞くようになったからだ。
早朝というのは午前4時から6時くらいの時間帯。コロナ禍の前後から、まだ暗いうちに目覚めるようになってしまい、恒常的な超早起きになってしまった。コンピューターに向かって仕事をしていると、どこか遠くのほうで鳥のさえずりが聞こえる。どのあたりにいるのか、どんな種類の鳥なのか……。この一、二週間はさえずる音色が大きくなり、少し近くに移動したようにも思える。
言うまでもなく、ヨーコというのはヨーコ・オノ。1964年出版の作品集《グレープフルーツ》の中で一番初期の作品が《Secret Piece》で53年夏の年記が付いている。
インストラクションは「自分の演奏したい音を一つ決める 以下を伴奏にして演奏する 午前4時から8時の夏の森」。
活字のインストラクションの下には、ドローイングも添えられている。手書きのト音記号の五線譜には「夜明けにさえずる鳥の歌を伴奏に」とあり、これがオリジナル・バージョンだったとの注釈付きだ。
私は都会っ子で朝の森で鳥の歌声を聞く環境にはいない。でも、オリジナルのコンセプトも活字になったテキストも、ともに美しいイメージを喚起する。ヨーコの作品の中でも、私の大好きな一つである。
だから、朝4時の鳥のさえずりを聞いて、ようやく私もヨーコの境地に少し近づけたかと嬉しくなっているところだ。
さて、今年はヨーコのニュースが地元のNYタイムズ紙の社会欄で二度も話題になっている。
一つは、ヨーコが1973年から住んでいた有名なアパートビル「ダコタ」からアップステートに引越ししたという7月のニュース。オンライン版では、オーディオでヨーコの声も聞ける 。
ニューヨーカーにとって、ヨーコはご近所のセレブ。私も高級和食店のENやおめんで見かけたことがある。(対して、生前の河原温を時折り見かけたのは大衆食堂だった)。
写真家の夫には、生涯ただ一度の追っかけをしてジョンとヨーコを間近にとらえた、とっておきの一枚がある。71年の撮影だ。
もう一つの記事は、大のヨーコファンで知られる友人のフィリップ・ワードが《ヨーコ・オノのための朝の曲》というイベントを極寒のセントラルパークで開催したニュースだ。2月18日に今年90歳の誕生日を祝っての企画だった。60年代のヨーコ作品には《朝の曲》というポエティックな代表作があり、それにちなんでのオマージュである。
我が家も誘われていたのだが、あまりに寒くてパスしてしまった。フェイスブックに投稿された写真を見ると、《ウィッシュ・ツリー(願かけの木)》にちなんだ参加型の趣向を盛り込むなど、ヨーコを熟知して工夫をこらした楽しめる企画だったようだ。
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