”立体木象嵌――木を味わう”
卓越した技術と表現力光る現代作家17名が集う「超絶技巧、未来へ!」展。本展に最年少で名を連ねるのが、福田亨だ。
子どもの頃の夢は折り紙作家。美術的な素養を積むため北海道で一番小さな村・音威子府(おといねっぷ)にある道内唯一の美術工芸高“おと高”に進んだが、秋頃には工芸や油絵に傾倒し、創作家具で人の暮らしを豊かにしたいと、家具職人に進路を定めた。
卒業後は京都の工芸大で手仕事を磨き埼玉の家具屋に就職したが、水が合わず2ヵ月半で退職。やはり自分のもの作りでやっていきたい。無名の自分が、アパートの一室で何ができるか――そこで選んだのが、独学で続けてきた象嵌だった。
高校時代、廃材の中から様々な色の木を見つけ「木で絵が描けないか」と考えた。木材を張り合わせた際段差が生じないよう埋めて彫り込むことで平にし、皿を作った。「象嵌やってるのか」、先生の言葉で初めてそれが伝統技法だと知った。
予てより気になっていた自在置物作家の個展を訪ねたことも一つの転機に。精工な作品はもとより、“完売”に感動した。「人のため人のため、と需要に応えることに意固地になっていましたが、作りたいものを作ることも人のためになると、肩が軽くなりました」。
象嵌主体の作品を作ろうと福田が編み出したのが、伝統的な木象嵌技法を立体彫刻に応用した「立体木象嵌」。最初の作品は蝶、今も昆虫は主なモチーフだが、何より大切にする創作の原点は、木の魅力を伝えること。その作風の大きな特徴の一つが木の色味を活かした無彩色で、《吸水》の蝶の羽は多様な木の組み合わせで表現し、水滴は黒檀の板を掘り下げ研磨することで生み出した。
家具職人から木工作家に転じたが、その志は、折り紙に熱中した少年期から一貫して「自分で考えたものを作り、食べていく」こと。巧緻極まる手業の結晶、是非肉眼で見つめてほしい。
(取材:秋山悠香)
福田 亨(Fukuda Toru)
1994年北海道小樽市生まれ。2013年北海道おといねっぷ美術工芸高校卒業、15年京都伝統工芸大学校木工専攻卒業。19年、21年に銀座・靖山画廊にて個展、その他グループ展多数。本年は国立工芸館「ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―」、岐阜・長野・大阪・東京・富山を巡回する「超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA」(11月26日(日)まで三井記念美術館で開催中)にも出品。10月27日(金)~11月3日(金・祝)靖山画廊「福田亨―水のかたち―」開催予定。
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