私はアトリエに居たくない。
決してアトリエが嫌いなわけではなく、嫌いになりたくないから居たくないのだ。制作を始めると1カ月、大きい作品になると2カ月以上かかることもある。
自分の性格上、締め切りが近くならないと身が入らない、そして飽きやすい。できれば集中して一気に制作をしたい。新鮮な気持ちで新しい制作に入れることに一番気をつけているので、本格的に制作する時以外はアトリエには居ないようにしている。構想を練る時は、少し照明を落としたレトロ感のある喫茶店で考えることが多い。
散歩の時に気になった物や、ふと思い付いたアイディアなどを喫茶店の落ち着いた空間の中で考えている時が、一番構想が固まる。喫茶店といえば珈琲だが、私は体質的に珈琲が合わないため飲めない。珈琲を売りにしているお店に行っては毎回珈琲以外の物を注文し、長居をして新しい作品を考えるので店主さんには嫌な顔をされることもあり、とても申し訳ない気持ちになる。
そのため、なるべくいくつかの喫茶店を巡るようにしている。今日はこの喫茶店、明日はこっちの喫茶店、そうしているうちに喫茶店巡りが趣味となっていた。
新しい喫茶店に行くときは、道中で作品につながりそうな物を見つけ、喫茶店で構想を練り、そして制作に入るというのが今はルーティンとなっている。
最初は制作のために喫茶店に入っていたが、いつの間にか制作と趣味が一緒になっていた。今の私の生活には、喫茶店はなくてはならないものだ。制作を続けるうえで喫茶店は、必要な一種の画材なのかもしれない。
香取 宏幸(かとり・ひろゆき)
1982年東京都生まれ。2005年和光大学表現学部芸術学科卒業。
06年第70回記念新制作展に初入選し、15-17年同展新作家賞を受賞。18年新制作協会会員推挙。
19年画廊るたん、22年京王プラザホテルLobbyGalleryにて個展開催。そのほかグループ展多数。
12月7日(木)~20日(水)銀座・ギャラリーせいほう「YEAR END EXHIBITION OF MINI SCULPTURES」、2024年4月 川崎・中村正義の美術館「2人展」出品予定。
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