それでも小さなことが気になるの
武蔵野美術大学在学時から数々の公募展で受賞を重ね、幻想的で温もりを感じさせる作品で発表のたびに注目を集める画家・野中美里。
モチーフとしているのは〈目に見えない繋がり〉。
「一つ一つのものは個々として存在するのではなく、全てが繋がっている」という思いから、物と物との関係が作り出す〈ながれ〉を絵画で表現している。
風景を写したトレーシングペーパーを重ね合わせて浮かんでくるイメージを元に、心地よい〈ながれ〉が生まれるよう筆触や色彩、個々のモチーフの配置にいたるまで試行錯誤する。
大まかな構図を仕上げるのに1カ月。そこからさらに時間をかけ細部に筆を入れる。
一つの絵画と丹念に向き合うことで、綿密に描きこまれた風景と静物は野中の見出した〈ながれ〉のもとで一つに溶け合っているかのようだ。
暖色を基調とした穏やかな色彩によって風景全体に生命が吹き込まれ、どこか懐かしく幸福感に満ちた世界が現れる。
物と物も、時間も空間を超え、どこかで繋がっている。
そんな思いは足元に広がる小さな世界から育まれた。
幼い頃から植物を愛する野中は、道端を歩いているときでも、小さな花や植物に目が留まる。
毎日、草花を観察していると、ほんの少し生じる変化がこの上なく愛おしい。
野中にとって、それは地面と大気を通じ、あらゆるものと繋がり、大きな世界に向かって開かれているミクロコスモスなのだ。
新宿髙島屋で開いた最新の個展では〈食卓と風景〉をテーマに据えた。生活に欠かせない食事と色とりどりの植物が調和した風景を通じて、野中の表現はさらなる深化を見せた。
「せめて、絵の世界は幸福であってほしい」
そんな切なる願いを込めながら丹念に絵具の層を重ね、調和した〈ながれ〉を探し求める。
(取材:原俊介)
野中 美里(Nonaka Misato)
1995年静岡県生まれ。2018年武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻卒業。20年同大大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。在学中の17年「シェル美術賞展2017」新藤淳審査員賞、19年「未来展」(日動画廊)グランプリ受賞。ほか「第39回上野の森美術館大賞展」「第56回昭和会展」「FACE2022」「第25回雪梁舎フィレンツェ賞展」など入賞・入選多数。12月8日㈮~16日㈯「聖夜の女子会・武蔵美の巻」(村越画廊)出品予定。