[フェイス21世紀]:野崎 慎〈日本画家〉

2024年04月25日 12:00 カテゴリ:コラム

 

”描き、考え、また描く”

 

戸田市のアトリエにて(4月12日撮影)

戸田市のアトリエにて(4月12日撮影)

 

「こんなもんでいいんでしょ、と思ってるでしょ」。

 

手癖で描いてしまっていた浪人時代、予備校の先生に指摘された。作品には全部伝わるのだと、今もその言葉を思い出す。完成が見えた時こそ、もう一歩先へ、その意識をもって筆をとる。

 

日本画の道を選んだのは高校2年時。予備校の体験で谷中の日本画材店・得應軒を訪ねた際、グラデーションでずらっと並ぶ岩絵具に心惹かれた。二浪を経て進学した多摩美時代の主なモチーフは、水面。卒業・修了制作共に水面に映る影や表情を捉えた大作を発表したが、出産を機に身近な花を画題として琳派や若冲から古典技法を学び直した。

 

(左)《巡る季節-春夏-》 (右)《巡る季節-秋冬-》いずれも 2016年 53.0×65.cm

(左)《巡る季節-春夏-》2016年 53.0×65.2cm         (右)《巡る季節-秋冬-》2016年 53.0×65.2cm 
出産に伴い外への取材がままならず、半ば強制的にモチーフを変更。学生時代、自由であったが故に苦戦した日本画技法を江戸期の絵画から学んだ。具象性の強い表現へと変わっていった一方、モチーフにこだわらずとも自分のやりたいことはできると気付いたという。

 

見えるもの/見えないもの、生命の尊さを一貫したテーマとする野崎の近年の作品で際立つのは、大小さまざまな丸や粒。己の内面を表す術を模索するうち、画面に現れた。どうして丸なのだろう? 量子力学では物質を細分化すると粒になる。丸は、生命や宇宙の最小単位とも言えるのではないか。そんな自問を重ね、今日の点描表現へと至る。

 

なぜ水面を、なぜ丸を描くのか――その意味を考える大切さは、大学院修了後より個展を続けるギャラリー広田美術の廣田登支彦氏から学んだ。
「感覚的に描いたものも、後から意味を考え、そこから新作を描く。そうやって進んできました」

 

《continuing cenery》2023年 60.6×72.7cm

《continuing cenery》2023年 60.6×72.7cm
「作品に”丸”が用いられることは、なぜ多いのか? 思えば水も地球も丸く、宇宙で生きている限り、丸は生まれながらにインプットされているのかな、と。昔の人たちは量子力学を知らずとも自然とやっていて、神秘的に感じます」。

 

絵と言葉が融合する世界を募る「絵と言葉のチカラ展」出品にはじまる“言葉”の表現は、自問自答を繰り返す野崎の創作に不可欠なものになった。そして本年、第3回展のグランプリを受賞。
「受賞作は、これまでの花の表現と点描による試行錯誤が噛み合い、それが賞に繋がったので励みになりました。絵と言葉を行き来することは、今後も大事にしたいです」と喜びを語る。

 

画業と育児のバランスが掴めてきた中で迎えた40歳の節目。40代で代表作となるような大作を描くことを目標に、これからも描き、考え続ける。

(取材:秋山悠香)

 

《日々》2023年 65.2×53.0cm 「第3回 絵と言葉のチカラ展」グランプリ(絵・言葉)


《日々》2023年 65.2×53.0cm「第3回 絵と言葉のチカラ展」グランプリ(絵・言葉)

 

 

アトリエの一角には、神秘的な造形に惹かれて集める貝殻が。

自然光の注ぐアトリエの一角には、神秘的な造形に惹かれ、自ら拾ったり買ったりと収集する貝殻が。

 

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野崎 慎(Nozaki Chika)

 

1984年埼玉県生まれ、2010年多摩美術大学大学院日本画研究領域修了。12年より銀座 ギャラリー広田美術にて個展7回、16年アートフェア東京出品。07年夢美エンナーレ入選作品展(八王子市夢美術館)、09年第18回佐藤国際文化育英財団奨学生展(佐藤美術館)。10年・12年ART AWARD NEXT入選。07年守谷育英会修学奨励金特別賞、09年第20回記念臥龍桜日本画大賞展奨励賞、24年第3回絵と言葉のチカラ展グランプリ受賞。

 

【関連リンク】野崎慎(ギャラリー広田美術)Instagram

 


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