先日、シカゴ大学で「オペレーションの思想」と題したトークを行った。
「オペレーション」は、私の提案するコンセプトで「作家の表現(つまり作品)を広く社会にコミュニケーションする諸作業」の全体を指す。展覧会もオペレーションだし、批評行為や画廊の運営も作家をプロモートするという点でオペレーションである。
現代美術から遡ると、美術団体も自分たちで公募審査展を開催していて、近代美術におけるDIYオペレーションの元祖となる。
興味深いことにシカゴ大学のキャンパスで二つのDIYオペレーションが目についた。
その一つは、トークの企画者の一人、アラン・ロンジーノが主催する「美術史研究所」(IAH)で、校舎内に遊休しているセミナー室を転用した企画展示を行う。
ちょうど「アン・ロリマーのデスクから――オン、アン、オン」と題した第4回展を開催中。河原温と親交のあった美術史家のアン・ロリマーの所有する関係資料の展示だ。
ディジョンで1985年に開催された個展の図録用にロリマーが執筆したエッセイの原稿もあれば、家族のスナップショットもある。美術史家のアーカイブを通して作家の知られざる一面を紹介する試みだ。セミナー室という場を活かして、来場者が興味のある資料を展示パネルから外して、部屋中央のテーブルでゆっくり読めるという心憎い演出もある。
私は、さっそく河原がロリマーに送った資料一式をまとめたファイルを所望した。
ぼろぼろの封筒からコピーを取り出して驚いたのは、それがすべて色彩論の学術論文類だったことだ。実は、私は作家から「日付絵画」を理解するためには色彩論を勉強しなければならないと教えられていたのだが、トピックが膨大すぎて何を読んでいいのか分からないで困ったことがある。なんと、これが河原温の意味した色彩論だったわけだ。
もう一つは、トークでコメントをしてくれたコンセプチュアル作家の錢同濟だ。同大学視覚芸術学部で教えていて、教員としてスタジオの割当てがある。その空間を「State ⅧProject」と銘打って、他の作家たちの展覧会企画を2027年まで続けていく試みだ。
ちょうど4月にオープンした第1回展の会期中で、中国の王狼狗とNY在住のマッケンジー・トロッタの二人展を見た。
5月の陽光の差し込む窓に向かって左側の壁にコンセプチュアル系の王、右側に版画とドローイングを表現媒体とするトロッタを配している。
よく見ると、薄緑色のテープで展示空間を仕切り、手前には若干ながら錢自身のスタジオスペースも確保されている。
オペレーションとしては、まずスペースを開放して企画した展覧会自体が錢の作品である。と同時に、コミュニティ系のアートセンターの中にあるスタジオでの企画を「画廊」と呼ぶべきか「プロジェクトスペース」と呼ぶべきか悩んでパートナーの汪帆と会話した記録も新聞形式のパンフレットとして出版されている。これもまた重要なオペレーションの一部となっている。
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