”漆芸作家芽出る”
江戸蒔絵赤塚派10代・三田村有純の長男として生を享けた三田村雨龍。
常に木と漆が身近にある実家で、ごく自然にもの作りに触れていた雨龍の転機は高校に入学して間もないころのこと。
父の研究に同行するため学校を1年間休学して、ヨーロッパ11カ国の美術館・博物館を訪ねた。
江戸蒔絵の名品を調査する傍ら、世界的な名画・彫刻を浴びるように鑑賞。
現地で培った経験は、今に至るまで雨龍の創造の源となっている。
ヨーロッパで観たマグリットやダリの作品の影響も受け、自分だけの漆芸を見つけ出すため、漆芸のみならず木彫の技も習得した。
「自分だけの独特の世界観を表現している作家に強い憧れを持っています。自分もこんな自由な造形をしたい、という思いが制作の下地」
伝統を受け継ぎながらも、新しいものを生み出すことを志向。漆芸品のなかに立体的な意匠を織り交ぜ、また身近な素材を活かした制作にも積極的に取り組んだ。アトリエのある埼玉・小川町の名産品である和紙に漆を何十回と塗り重ねた、軽く強い器は注目を集めた。
主要な発表の場である二紀展では“生命”を一貫したテーマとした作品を発表している。
さつまいもやジャガイモを象った大型の木彫に芽を象嵌した《芽出(いず)る》と、急速に発達するデジタル社会をモチーフにした《デジタルシード》のシリーズだ。
現実と非現実という一見対極的なモチーフを用いながらも、伝統的な素材と技法を用い、未来へ繋がる生命のエネルギーを“芽”を通じて表現するというテーマが通底している。
「説明しなくても造形だけで観る人に自分の世界観が伝わる。そんな作品を生み出すことができれば理想です」
穏やかに語りながらも、目指す表現は野心的。雨龍の漆芸はなおも芽生えの最中にある。漆芸と木彫の技を究めた先にまだ見ぬ造形を求め、果敢な挑戦は続く。
(取材:原俊介)
三田村雨龍(Mitamura Uryu)
1982年東京都生まれ。2004年岩手県安代町立漆器研修所(現・八幡平市安代漆工技術研究センター)卒業。木彫作家の前川正治に師事し、09年富山県井波木彫刻工芸高等職業訓練校卒業。13年独立。21年「第74回二紀展」優賞。現在、木漆工房雨龍主宰、二紀会準会員。10月16日㈬~28日㈪「第77回二紀展」に出品予定。
【関連リンク】「江戸蒔絵赤塚派 三田村家」公式ホームページ