刹那を”生けどる”
千変万化する水の表情、その一瞬を“生けどる”画家・中野浩樹。
父は日本画家の中野嘉之、母も油彩画家で、画材の手触りや匂いは日常にあったが、自ら絵を描いたのは高校3年の時だった。
荒んだ高校時代を過ごしていた中野を、父は兄と共に奥入瀬へ連れて行った。そこで手渡されたスケッチブックと鉛筆に不思議と抵抗はなく、がむしゃらに木々を描く。すると、道行く人が絵を褒めてくれた。絵描きになるなと育ち、自身も描かないようにしてきたが急転直下、しかし自然と、芸術の世界の入口に立つこととなった。
多摩美の油画専攻に進むと、ここからが勝負だと、枚数も号数も、誰より描いた。「遊び尽くした10代は大学で絵を描くための充電期間だったんじゃないかと思います」と笑う。父への反発心かプライドか、日本画壇、同じ土俵には立たず。それでもその存在感の大きさに苛まれたが、最期には絵に向かう姿勢を互いに尊敬し影響を与え合える、良き友、良き理解者になれた。
日本の四季や自然に関心を抱く中野は、油絵具に始まりアクリル、岩絵具と多様なアプローチで光を意識した作品を描いてきた。雪舞う雪原から飛沫をあげる荒海、近年は水面や水中、水をモチーフに、流動的なものが一瞬静止した緊張感、その余韻や感動を捉える。抽象的だが、抽象画ではない。偶発的なアクションに頼らず“描写”から逃げないことを、自分に言い聞かせる。
「迷ったらよく見て描く。一番根底の部分ですが、それを大事にしてきたからこそ今がある。壁にぶつかった時、いかに打破するか――描く、という答えに行きつくまで苦しかったけど、今は何でも描けるという自信があります」。
今後は海外での発表を増やしたいと語る中野。一所に留まらず、かたちを変えながら深化を続けるその作品と挑戦の行く先を、追っていきたい。
(取材:秋山悠香)
中野 浩樹(Nakano Hiroki)
1981年神奈川県生まれ、2005年多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。在学中、新制作展に出品・入選。07年渋谷ウエマツウィンドウギャラリーにて初個展、以降コート・ギャラリー国立、画廊るたん、f.e.i art gallery、東邦アート、髙島屋等、都内にて個展多数開催。ほかグループ展、アートフェア参加。13年に大作公募展「Artist Group-風-」入賞(15年、18年、21年)。現在無所属。
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