富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] : 明日少女隊(あしたしょうじょたい)―もうすぐ10年

2024年11月25日 11:00 カテゴリ:エッセイ

展示のプラカードを持って、観客の一人とポーズする明日少女隊の尾崎翠(左)。ニュージャージー市大学アート・ギャラリーにて 筆者撮影

展示のプラカードを持って、観客の一人とポーズする明日少女隊の尾崎翠(左)。                              ニュージャージー市大学アート・ギャラリーにて 筆者撮影

 

明日少女隊は、オンラインのコレクティブで、2015年から活動を始めている。

 

自称「第4世代若手フェミニスト 社会派アートグループ」で、アート+フェミニズム+アクティビズムを標榜し、「男性、女性、いろいろな性。みんなが平等でHappyな社会を」目指して行動している。

 

リーダー格の尾崎翠がNYの美術学生だった時から知っていて、明日少女隊も設立の当初から見守ってきた。

 

来年で10周年になるが、刑法性犯罪改正、広辞苑のフェミニズムの定義、「慰安婦」やトランスジェンダーの権利の問題など様々なテーマに取り組み、メディアへの意見書送付をはじめ、パロディー精神あふれるポスター類の制作、ワークショップの開催をつなげながら、街頭などの公共空間でもパフォーマンスをするなど幅広い展開を遂げている。

 

昨年は東京で個展を開催し、作品集を兼ねたフェミニズムの入門書を出版した。また、18年にはシドニーで個展を行い、先日ニュージャージー市大学アート・ギャラリーでアメリカ東海岸初の個展をオープンするなど(会期12月18日まで)、英語圏での認知度も高まり始めている。

 

隊員は日本やアメリカを中心として南米やヨーロッパ、アジアまで50名を超える。アートグループとはいうものの、アーティストの会員は少数派で、アートは戦略のためのツールとして有効利用している。

 

作品集『We Can Do It!』の帯デザイン(一部)

作品集『We Can Do It!』の帯デザイン(一部)

 

何より、数人のグラフィック・デザイナーを擁していて、明日少女隊の日本語のロゴや、作品集のタイトル『We Can Do It!』のタイポグラフィー、広報や啓蒙のための各種シールには洗練されたデザイン感覚が光っている。また、蚕と兎をハイブリッドしたショッキング・ピンクのマスクも、きもかわいい。

 

造形性に優れた明日少女隊のシール各種

造形性に優れた明日少女隊のシール各種

 

ところで、明日少女隊のように社会テーマに介入していくアートは、どんな実効があるのかということがしばしば議論される。アートによって問題意識を高めることが第一義だとも言えるが、明日少女隊の場合には、小さいながらも変革を引き起こしたプロジェクトもある。

 

それは、広辞苑第6版の「フェミニスト」と「フェミニズム」の定義に異議を申し立て、改訂を求めた《広辞苑キャンペーン》である。広辞苑と言えば、国語辞書の定番として確たる位置を長年維持しているが、フェミニズムの定義が「女権拡張論」、またフェミニストを「女権拡張論者」とするのみならず、「俗に女に甘い男」という時代遅れの定義まで掲載されている。

 

これに対して、日本の広辞苑に対応するアメリカのウエブスターやイギリスのオックスフォードが「性別間の政治的、経済的、社会的平等の理論」として、「平等」の文言を入れていることに着目、「フェミニズムが『性別間の平等』を求める思想であることを明記」してほしいという署名運動を開始、6500筆以上の署名を集めて、第7版に改訂の際に「平等」の二文字を追加させることに成功した。ただし「女に甘い男」が第二義として残ってしまったことは今後の課題となる。

 

《忘却への抵抗 Against Forgetting》の展示風景はパフォーマンス(2018年ロサンゼルス+2019年東京)、記録写真とLAで使ったバイリンガルのプラカードを紹介する。LAではアーティスト嶋田美子との協働となり、2019年ソウルでのパフォーマンスでも協働した。筆者撮影

《忘却への抵抗 Against Forgetting》の展示風景はパフォーマンス(2018年ロサンゼルス+2019年東京)、記録写真とLAで使ったバイリンガルのプラカードを紹介する。LAではアーティスト嶋田美子との協働となり、2019年ソウルでのパフォーマンスでも協働した。筆者撮影

 

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