〈画廊の本音〉 銀座柳画廊

2012年11月16日 14:52 カテゴリ:コラム

 

野呂好彦氏・野呂洋子氏

「全ての家庭に作品を」
2人の理想の未来をめざして

 

 

 

 

 

 

 

 

「伝統と革新の融合」。どうも使い古された感のある言葉だが、柳画廊の野呂好彦社長、夫人で副社長の野呂洋子氏を表するにこれ以上の言葉は無いように思える。

柳画廊は1994年創業。小磯良平や岡野博、広田稔ら近現代の作家を幅広く扱う。好彦氏は大阪・梅田画廊会長の野呂好徳氏を父に持ち同画廊などでの修行を経て独立した、まさに「画商」の伝統を地でいく人物だ。かたや洋子氏は日本IBM出身という異色な経歴の持ち主。「常に新たな価値を提供する事が企業の存在意義。画廊も同じ」と様々なアイデアを持ち前の行動力で形にしてきた。

 

 

沖守弘「マザー・テレサ」

09年から始めた「銀座の画廊めぐり」もその1つ。「まず画廊を知ってもらうこと」を第一に洋子氏がガイドとして銀座の画廊を案内するというサービスだが、「うちの顧客しか来ないだろうに、その顧客を他の画廊に紹介するなんて」と当初、好彦氏は大反対。これまでにない試みに他の画廊の反応も良くはなかった。ところが蓋を開けてみるとこれが好評。マスコミからの取材も数多く受け、参加希望者は後を絶たない。何より作品の販売にもつながった。「業界が厳しい今だからこそ積極的に動かなくてはいけないと実感した」と好彦氏も話す。
また、洋子氏は小中学生への美術教育にも積極的だ。「美術というのは継承していくもの。次の世代への教育は必須で、我々画廊にとってはとても重要です」。子供向け画廊めぐりやボランティアスタッフとして画廊の仕事を学んでもらうなど、これまで「大人の世界」として捉えられてきた銀座の画廊を広く子供たちにも知ってもらうよう心を砕く。「観る楽しみはもちろん、買う、所有する楽しみがあることも知ってほしい。そうして、美術業界を目指す優秀な若者が増えてくれたら」。

 

 

ダリウス・エック・コキール 2012年 41×32cm 油彩  ※「ダリウス展」11月15日~21日

こうした洋子氏の新たな試みが成り立つのも、好彦氏が創り上げた「柳画廊」への信頼と、新たなものを受入れる度量があればこそ。「最近はもう反対することはありません。反対してもやってしまいますからね」と好彦氏は笑う。意見を戦わせることもあるが、「全ての家に絵があり、皆が絵を買う楽しみを知っている日本」という2人の共通のビジョンは揺るがない。「個人の意識から、国の制度に至るまで、変えていかなくてはならないものが沢山あります。まずは、美術業界で働く人々に作品を買ってもらうところから始めていきたい。作品を買う楽しみを知っている人の言葉は何倍にも増して伝わるはず。そうして美術を買う楽しみが段々と広がっていくといいなと思っています」。好彦氏の言葉に洋子氏も強くうなずいた。(和田圭介)

 

 

 

銀座柳画廊(東京都中央区銀座5‐1‐7数奇屋ビル3階)

☎03‐3573‐7075

【開廊時間】 10:00~19:00(土曜 11:00~17:00)

【定休日】 日曜・祝日

【関連リンク】 銀座柳画廊公式ホームページ

「新美術新聞」2012年9月21日号(第1291号)より

 

※【関連ニュース】 12月1日「美術と教育を考える会」キックオフ・シンポジウムを開催

 

 

 


関連記事

その他の記事