〈画廊の本音〉 秋華洞・田中千秋氏

2012年07月06日 18:03 カテゴリ:コラム

 

 

田中千秋氏

高い技術と表現性の融合。

それが人の心を動かす。 

 

「皆と面白いものをつくって人を楽しませる仕事がしたい。それは幼い頃から全く変わっていません」。秋華洞の代表取締役社長を務める田中千秋氏(47)は、映画製作や酪農、IT業界など様々な経験を経て2003年に思文閣の元副会長であった父・自知郎氏と共に株式会社秋華洞を設立。美術品のオンライン販売事業を始めた。「インターネットでは高額の物は売れないというのが定説ですが、それはやり方が悪いのかもしれないし、時代も変わるもの。ならば売れる時代を自分たちで作ろうと」。

 

秋華洞ほどHPのコンテンツが充実している画廊は少ない。「購買力も購買欲もある潜在的な顧客層はあるものの、彼らを作品購入へと導く情報が圧倒的に少ない。そこにうちの存在価値があるんです」。日本画家百科事典や用語集、メールマガジン、ブログなど直接的には販売につながらないと思われるコンテンツも地道に強化し情報を発信。潜在顧客の取り込みを図る。また、景気低迷で冷え込む日本の美術市場への危機感、そして日本が誇る独自の文化の素晴しさを津々浦々まで知らせたいという思いから、海外向け日本画販売サイトを開設。HPのコンテンツも英語化するなど、海外のマーケットを見据えた取り組みも積極的に推進する。

 

池永康晟 「糖菓子屋の娘・愛美」 2010年 35.5×35.5cm 麻布に岩絵具、墨、金泥

開業当初は江戸から近代にかけての作家を中心に扱っていたが、2007年の「アートフェア東京」初出展の経験から現代作家を取り扱う必要性を痛感。「指派(ゆびのは)」を標榜する池永康晟や阿部清子、岡本東子など日本画の技法にこだわりを持ち、日本人を描くという若手作家も取り扱い始めた。「国芳から深水、彼らが描いた美人画の系譜に連なる作家をやりたい。いわゆる現代アートのようなコンセプチュアルなものではなく、人が観て単純に感動するような直球の作家をやりたいなと」。今では、浮世絵を希望していた顧客が若手作家の作品を買い求めるなど販売における良い循環が出来てきているようだ。

 

 

 

鏑木清方 「明石町」 昭和中期頃 45.5×38cm 紙本彩色

時代の先を見据え、メディアを駆使した様々な戦略。しかし、その根底には祖父の代から続く「顔の商売」としての画商の精神がある。「やはり気持ちが通じ合う作家と組まないとうまくいかない。売れる作家をやるというよりも、自分の信念と合う作家。損得勘定もあるけれど、腹を割って話したい。画商というのはすごく人間くさい世界です。」と笑顔を見せた。

(取材/和田圭介)

秋華洞(東京都中央区銀座6‐4‐8曽根ビル7階)

☎03‐3569‐3620

【開廊時間】10:00~18:00(日・祝日のみ11:00~18:00)

【関連リンク】 www.aojc.co.jp/ www.syukado.jp/

「新美術新聞」2012年5月21日号(第1280号)より

 


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