コレクションの行方
富井玲子
コレクターのレナード・ローダーがキュビスム・コレクションをメトロポリタン美術館に寄贈するという。4月10日付のNYタイムズが文化ではなく一般報道の第一面写真入りで報道した大事件だ。
全78点、評価総額10億ドルの規模もさることながら、ピカソ、ブラック、レジェなどの主要作家の優品にしぼった収蔵の質が高い。しかも無条件の寄贈なので、展示は同館学芸員の裁量に一切任される。
コレクターが作品を寄贈するのは税制上の優遇、社会的ステータスなどの理由があげられる。だが、それ以上に美術作品は単なる私有財産ではなく、大げさに言えば人類の宝である。そんなビジョンすらあるだろう。別個に基金を拠出してローダーの名前を冠した近代美術研究所も同館内に設立する。そういうところに公益精神がうかがえる。
アメリカの美術館は、こうした寄贈が収蔵品拡張の一翼を担っているから、館長や学芸員は将来をにらんでコレクターをコレクションするのも主要な仕事の一つとなっている。
その点で興味深いのは、わが母校、テキサス大学オースティン校付属ブラントン美術館が創立50周年記念に企画した「テキサスの目:卒業生の蒐集した名品」展(~5月19日)。
協力した卒業生はテキサスの億万長者から前衛演劇のロバート・ウイルソンまで150人で、総数200余点を借りて企画した大展覧会。
とにかく集められた作品の幅は広い。モネの睡蓮やオキーフの60年代の風景画があれば、メキシコに近い土地柄もあり古代マヤの遺物もあり、ブラジルのヘッドドレスや古代エジプトの女神像、遼朝の磁製祭器、また能面や日本の兜まである。
また、近年の傾向を反映して翁奮、徐冰、張洹、曾小俊と中国の現代作家が4人も入っている。
近年戦後日本美術の蒐集に力を入れているダラスのラチョフスキー夫妻は、フェリックス・ゴンザレス=トーレスとジャニン・アントニを出品している。私も赤瀬川原平の模型千円札関係を出品した。
何より興味深いのは展覧会としての仕立てだ。現代画家アレックス・カッツのヘナヘナした水景もハドソン・リバー派のモランやビアシュタットの秀逸な小品と並ぶと見違えるように引き立つし、ジャニン・アントニのチョコレートと石鹸の彫像は、仏アカデミズム画家ブーグローやラファエロ前派のジョン・ウィリアム・ゴッドワードのムーディな女性肖像画、テキサス画家グレイドン・パリッシュによる地元の黒人女性シェフの肖像画などと並べられて、フェミニズムの主張に奥行きが出たりする。こうした取り合わせの妙に学芸員の実力が出るわけで、イェール大学付属美術館に次ぐ床面積を誇るブラントン美術館は、頭脳でも群を抜く、と卒業生コレクターには十二分なアピールとなっている。
なお本展への作品貸出を契機に同館の計らいもあり4月中旬にオースティンを訪れ、同館では60年代日本美術、美術史学科ではいうまでもなく具体で講演させていただいた。人生の宿題を一つ片付けた気分である。
「新美術新聞」2013年5月1・11日合併号(第1311号)3面より