人のこころ、社会を動かす気持ち
デザインにこめて
「今では自分のデザインというより、むしろ自分から巣立っていった感じ。保護者のような気持ちです」。島峰藍が「東京2020オリンピック・パラリンピック」招致ロゴマークのデザインコンペに参加したのは、女子美術大学4年の2011年秋のこと。桜をモチーフに、皆が未来に向かってひとつにまとまっていくイメージをリースのかたちで表現した。特に女性のあいだで評判が良い。「イベントでロゴグッズを配布するとき、わたしこれ欲しかったの、かわいいわね、と言われると素直に嬉しいですね」と笑顔がこぼれる。
一番のこだわりは桜のかたち。「桜をいかに桜らしく見せるか。最初はなんとなく描いていましたが、桜をもっとよく見てごらん、とアドバイスされて」。桜を丹念に観察し直し、花びら一枚一枚の動きをとり入れた。
デザイナーを志し、大学在学中からコンペに積極的に参加。着々と実績を重ねてきた。大学1年時に、印象的な出来事があった。それは視覚障がい者のためのロゴマークをデザインし、採用されたときのこと。表彰式の席で、涙を流して感謝された。驚くとともに、デザインの大切さを実感し、デザインの持つ力をもっと突き詰めていきたくなったという。
その後東京藝術大学大学院に進学し、自身の名前にもある“藍”色の研究を進めている。染料である蒅(すくも)の職人に取材し、修了制作は藍色を使った作品を構想している。いつかは作品の発表活動をしたいとも。自らの指針は「アートは問うもので、デザインは答えるもの」―大学で教わった言葉だ。何に対して問い、答えるのか。自分にできることは「社会」に答えることだと考えたという。「人のこころ、社会を動かすことを大切にしたい。その気持ちがあれば、きっとどんな難題も乗り越えていける」。夢は大きく、膨んでいる。(松﨑裕子)
「新美術新聞」2013年6月1日号(第1313号)5面より
島峰藍(しまみね・あい)さんプロフィール:
1989年東京都生まれ。2012年女子美術大学芸術学部デザイン学科卒業。在学中、2009年第7回銀座スペースデザイン学生コンペティション ハツコエンドウ賞。2010年仲條正義特別講義・仲條正義賞。2011年「東京2020オリンピック・パラリンピック」招致ロゴマークに採用される。2012年女子美術大学大村特別賞。現在、東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻在籍。