女性美に表す 自分だけの個性
東京美術学校の設立に大きく寄与し、日本美術院を創設した“近代日本美術の父”岡倉天心。その生誕150年、没後100年を迎えた本年、9月1日から開催される再興第98回院展には大きな注目が集まるだろう。その院展に昨年初入選を果たし、今年2度目の入選を目指す窪井裕美は1984年生まれの29歳。東京藝術大学大学院の博士課程に在籍し、手塚雄二、吉村誠司の指導の下で日夜制作に取り組んでいる。
昨年の入選作「祈りの庭」は、童画を思わせる幻想的な画調に複雑な内面をにじませた女性の表情が印象的な作品。「私の中心的なモチーフは女性です。女性が持つ母性のような“善”の要素と、対極にある妖しさ、怖さなど“毒”の要素。その複雑な魅力を表現したいと思っています」。
高校3年の春、春の院展で日本画を知り、日本画を描いてみたいと3浪して藝大に。受験で求められた光と影による描き方と日本画の描法の違いに戸惑い、当初は苦労したと話す。「入ってみたら立体感なんていらないんだからと言われて…。」しかし、その後の研鑽の成果だろう、今年は第68回春の院展で入選、4月に銀座スルガ台画廊で個展を開催するなど、着実に作品を世に出す機会が増えている。。「まだ自分の世界観を確立出来ていないし、女性をモチーフとする作家は他にも沢山いらっしゃいます。その中で私が個性として突き詰められるものを模索しながら、制作していきたい」。
日本画を知ったあの日から10年が経ち、憧れの場所は今、日本画家として生きる場所となりつつある。「高校生のときからずっと観てきたものですから、院展の会場に自分の作品が並ぶというのは本当に嬉しい。今年の作品も今のところは順調に筆を動かせています」。研究室の壁に掛けられた制作中の作品を見ながら、笑顔を見せる。「でも、まだまだこれからです」。
(取材:和田圭介)
1984年栃木県生まれ。日展作家の教室で絵画を学ぶなど美術に理解のある母の下で育ち、2006年東京藝術大学美術学部日本画専攻に入学。2010年に守谷美術賞を受賞、2012年の修了模写は大学買上げとなる。同年、「祈りの庭」が再興第97回院展にて初入選。今年は第68回春の院展に「花摘み」で入選、銀座スルガ台画廊の連続個展「レスポワール展」に出展。現在、東京藝術大学大学院博士後期過程(第3研究室)在籍、日本美術院研究会員。今後は、11月「第4回参研展」(上野松坂屋)、12月「アートで楽しむクリスマス」(日本橋三越)などに出品予定。
新美術新聞2013年8月1・11日合併号(第1319号)9面より