「写真」を超えて 可能性を切り拓く
白い空間をジグザグと切る白いテーブルの上に、等間隔で並ぶ白い皿。皿の上には、様々な形の立体物が淡々と置かれている。表面の細かな模様を覗き込む来場者に「これ、すべて銀塩写真なんです」。∑!CH!KOは、まるで種明かしをするかのように話しかける。コンセプトは「においの記憶を巡る」。靴やメガネ、コーヒーカップなど実際に使われてきた品々に感光乳剤を塗り、モノクロフィルムを焼き付けた。物に残された「におい」を「見せる」という試みが面白い。ひとつひとつ、においの記憶を辿り、次の間へと続く幕をくぐる。すると一転、解剖図さながら透かし彫りを施した人物写真が禍々しい、黒の世界にど肝を抜かれる。
明と暗、表と裏、体内へと誘うかのような巧みな構成で「人体」を表現した初個展に、6日間で訪れた人は300を超える。驚くべき数字だ。
写真を本格的に始めたのは15歳の頃。以降、独学で制作を続けるも「写真を写真として表現すること」に息苦しさを感じていたという。「武蔵野美術大学に入学したのも、写真以外の領域も学べる環境があったから。色々な人との出会いを通じて、写真の枠を超えた、新たな表現に挑戦しようと思うようになりました」。現在は写真を軸にメディアアートやインスタレーション、パフォーマンスなど、表現の幅を広げている。
顔の見えない人々のポートレート「Fake Face」やTwitterに着想を得た「FOLLWO ME」など、常に“人間”というものを描き出してきた。「未知の部分が沢山あって、探究心をくすぐられる。興味の尽きないテーマです」。制作の根底にあるのは人を楽しませたいという思い。「卒業後は作家として活動していきたいと思っています。“フォトエンターテイナー”として、人々を驚かせたり楽しませたりする作品をもっと制作していきたい」と笑顔で語った。
(取材:和田圭介)
1991年大阪府生まれ。武蔵野美術大学映像学科4年在籍。15歳の頃から本格的に写真を撮り始め、写真のコンテストで入選、入賞を重ねる。近年は「フォトエンターテイナー」と称して写真に留まらずメディアアート、インスタレーション、パフォーマンスなど多技にわたる制作活動を行う。作家ポートレートは、一昨年より取組んでいる「Fake Face」シリーズより。
<平成25年 武蔵野美術大学 卒業・修了制作展>
∑!CH!KO 『DROPHOTOING』 @鷹の台キャンパス 2号館1F
【会期】 2014年1月16日(木)~19日(日)
【会場】 武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス(東京都小平市小川町1-736)
新美術新聞2013年9月1日号(第1321号)5面より