[フェイス21世紀] : 青木 良識さん

2013年10月30日 13:23 カテゴリ:コラム

 

大胆に、荒削りに、師の教えを胸に

 

「近江町市場」 2013年 162.0×130.3cm

 

もう10年、学生時代から描き続けている風景がある。それは石川県金沢市の中心部、鮮魚店など約170店舗が軒を連ね、日々、多くの人々で賑わう“市民の台所”近江町市場。「決して綺麗な風景ではない。でも、ここには今を生きているというエネルギーが溢れています。額に汗して忙しなく働き続ける彼らの、内面からにじみ出る美しさを表現したいんです」。新鮮な魚や野菜、果物などが発する匂いに市場で働く人々の汗と脂、すえた埃の臭いが入り混り、威勢の良い売り買いの声が絶えず飛び交う。そんな市場の空気、色彩を掴みとろうと必死にスケッチを重ねる時、胸に浮かぶのは恩師の言葉だ。―大胆に、荒削りでいろよ。

 

大学で地元金沢出身の日展作家、村田省蔵に学び大きく影響を受けた。「先生には、何よりも現場で描くことを教わった。スケッチに向かう先生の姿は本当に格好良くて。僕もこういう作家になりたいと思いました」。在学中の03年に日展に入選。師の「これから本当に絵を続けていきたいならば白日会に行くべき」という勧めを受けて、05年より白日会展に出品を始めた。

 

現在は市内の金沢学院高等学校で美術を教えながら、日展、白日会展への出品を続ける。教師と作家の両立。苦労は絶えないが、師譲りの現場主義を貫き、足繁く市場に通う。「あの色彩、あのフォルムを何とか表したいと、この10年描き続けてきました。精神的にも本当に辛くて、もしかしたら、これで良いという到達点が無いモチーフなのかも知れない。でも、僕は近江町市場に魅了されてしまった。おそらく、一生を通じて描き続けるでしょうね」。村田の教えを胸に刻み、大胆に、荒削りに描く“労働を通じた人間の美しさ”。今日も市場の喧騒に包まれながら、青木は手を動かし続けているのだろう。

(取材:和田圭介)

 

1青木 良識(あおき・よしのり)さんプロフィール:

1982年石川県金沢市生まれ。高校から本格的に絵を描き始め、当初は美大を志すも、金沢学院大学に美術文化学部が新設され、村田省蔵が教授に就任すると知って進路を変更。同大学で村田に師事した。在学中の2003年、第35回日展に初入選(以降、07年より毎年)、第60回石川県現代美術展に初入選(以後毎年)。白日展には05年の第81回展より毎年入選し、12年に会員推挙。今年の第89回展では梅田画廊賞を受賞している。現在、白日会会員、金沢学院東高等学校美術デザインコース教諭。

 

新美術新聞2013年10月1日号(第1316号)5面より

 


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