“平成の浮世絵”を目指して
一見絵画のように複雑でグラフィカルなモチーフ。伝統技法・糸目友禅染を駆使し、現代社会を鮮烈に切り取る石井亨の作品はどのように生まれたのか。
静岡県裾野市、富士山が身近にある環境で生まれ、高校時代に美術の授業で出会った葛飾北斎が浮世絵への興味につながる。
「『凱風快晴』(通称・赤富士)を見たとき自分はここにいるんだと思いました。北斎は当時の江戸風俗を自らの目線で記録しましたが、私は自分の作品を通じて“平成の浮世絵”を制作しているつもりです。今の我々が浮世絵に江戸時代を見るように、(自分の作品で)300年後の人々に平成の時代を感じてもらいたい」。
そんな石井だが「浪人時代はファッションデザイナーになりたいと思っていた」という。テキスタイルが学べるという理由で東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻に入学。しかしそこは想像とは違う伝統工芸の世界だった。
転機となったのは学部1年時に参加した岡本太郎記念館主催のレクチャー。赤瀬川原平や横尾忠則、小沢剛といった現代美術家と出会い「日本の現代美術に触れることが出来た。またその後に参加した中村政人氏による韓国のアートプロジェクトはアートと社会の繋がりを意識するきっかけとなりました。糸目友禅染は世界に類を見ない技術資源だという確信を得たのは大学院時代のロンドン留学です」。
糸目友禅染でリアリティのある現代社会を描くとともに、加賀友禅の小袖文様を絵画として再構築(小袖文様再保存シリーズ)するなど現代への“アップデート”も担ってきた経験。今後は自らの作品を欧米の絵画史に接続し、東洋と西洋のハイブリッドとしてより積極的な海外での活動を目指したいと明確なビジョンを語る。石井によって友禅はどこまで進化していくのか、可能性は未知数だ。
(橋爪勇介)
石井亨(Toru Ishii)さんプロフィール:
1981年静岡県生まれ。2006年東京藝術大学美術学部工芸科染織専攻卒業、08年チェルシー・カレッジ・アート・アンド・デザイン修士課程テキスタイルデザイン科交換留学、10年東京藝術大学大学院美術研究科工芸科染織専攻修了、現在同大大学院美術研究科美術専攻博士後期課程在籍。11年三菱商事アート・ゲート・プログラム奨学生、同年「イセ・カルチュラル・ファンデーション学生美術展覧会」でデイビッド・ソロ賞受賞。日本だけでなくニューヨークやロンドンでの個展経験も持つ。
今年は三越伊勢丹主催の「キス・ザ・ハート#3 東日本復興支援 アート&チャリティプログラム」(開催中~2月24日)への参加とロンドン・大和日英基金ジャパンハウスギャラリーでの個展が予定されている。
現在、ポーラ ミュージアム アネックスにて岩田俊彦との二人展「KIZASHI 友禅の斬新、漆芸の大胆」が開催中(~2月2日)。
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