いま、なぜ日本近代洋画なのか?
明治から昭和にかけて活躍した物故作家の紹介に尽力する。「日本近代洋画の良さをもっと再認識してもらいたい」と、至峰堂画廊銀座店の代表、鈴木庸平さんは力をこめて話す。
なぜ、日本近代洋画にこだわるのか。
武士の品格を漂わせる浅井忠、教育者としても秀でた藤島武二。鈴木さんは、明治や大正時代に生きた人々が描く油彩に、現代人にはない豊かな教養と感受性を感じ、心を惹かれてきた。作品から垣間見える作家の人間性、彼らの人生や社会に対する根源的な問いかけに触れる瞬間もまた、近代絵画鑑賞の愉しみだという。
ニューヨークをはじめ、定期的に海外へ出かける。最先端の美術市場の現実を目の当たりにし、かえって日本の近代絵画を大事にしたい気持ちを強くした。「目先を追わなくても、既に優れた作品は身近にある。自分が良いと思う時代の作品の価値を、自分の手できちんとみせていきたいと思いました」
一方で、日本近代洋画とは一体何だったのか「総体としてはぼんやりとしていてまだ明らかになっていないことも多い」。作品を安心して買ってもらうためには、作品の価値を伝える歴史の解明が必要ではないのか。そこに、画商の仕事の可能性がある―。この思いから鈴木さんは毎年1回、「忘れ去られつつある作家たち」と題した企画展を開催。時代背景を掘り下げて構成した展示は好評を博している。今年は、川口軌外を中心にした企画を実施した(2012年6月8日(金)から17日(日)まで)。
鈴木さんは元々、システムエンジニアとして都内で勤務。だが、日進月歩のコンピューター技術を追求するより、長いスパンで作品の歴史と価値に向き合う美術商として生きることを選ぶ。2009年、33歳のときに銀座店を開設。大阪・御堂筋で至峰堂画廊大阪店(1977年開業)を営む父・鈴木公平氏と協力しながら、あえて異なる地での商売を目指し、展開し続けている。
「理解するのに時間がかかるものがあってもいいと思うのです。だからあくせくせず、自分なりに当時の全体像をひも解きながら、日本近代洋画の魅力を伝えていきたい」
次々と目新しさを追い求めることだけが全てではない。年月をかけて価値が熟成された日本近代洋画に美を感じ、伝える―その営みは、先達が切り拓いた道程と足跡を忘れまいとする強い覚悟の表明でもあるのだ。
(取材/松﨑裕子)
「新美術新聞」2012年4月21日号(第1278号)8面より
☆画廊情報
至峰堂画廊銀座店(東京都中央区銀座6-9-4銀座小坂ビル4階)
☎03-3572-3756
【開廊時間】 10:00~19:00
【休廊】 無休(※ただし年末年始休、夏期休廊あり)
至峰堂画廊大阪店(大阪市中央区平野町3-6-1あいおいニッセイ同和損保御堂筋ビル1階)
☎06-6232-1363
【開廊時間】 10:00~18:00
【休廊】 日曜・祝日
【関連リンク】 www.shihoudou.co.jp/