ものづくりの風土-文化の多様性とともに
企業の手がけるギャラリーは、文化活動としてノンプロフィット(非営利)が一般である。作家は「売る」という意識を外し、制作と向きあうことができる。コマーシャルギャラリーとも、貸画廊とも異なるスペースだ。
この3月にINAXギャラリーから名称を変更したLIXIL(リクシル)ギャラリーもそのひとつ。1981年に東京・銀座で始まり、現在は大阪のギャラリーと愛知県常滑市にINAXライブミュージアムがある。
はじめの15年、美術評論家の故・中原佑介が顧問をつとめた。当時をたどれば、河口龍夫、新宮晋、吉村益信らの名が散見される。91年には第1回メセナ大賞・特別賞を受賞。30年をこす歴史を重ねてきたが、毎日のように展覧会を見て歩く、この姿勢は変わらないとディレクターの大橋恵美さんは話す。「ファイルも拝見しますが、これからやりたいことと異なる場合もある。まずはお会いします」。出来る限り卒展を巡るのが長年の伝統。「原則として、ひとりの作家に個展は一回。だからこそ、しっかりと向きあってその後も応援したい」。
東京には、大阪との巡回展を開くスペースと、現代美術、やきもののガレリアセラミカの3スペースがある。巡回企画展は企業の個性を生かした硬派でユニークな内容。個展は多彩な表現を取り上げ、野心的な造形やインスタレーションも多い。「作家も実験的な展示プランを出すことが多い」と大橋さん。どきりとする刺激的な内容もときにある。それが可能となるのは「ものづくりのメーカーでもあり、文化の多様性を重んじるところが大きい」のだとも。ふところは深い。
インタビューを大切にするのも文化活動の記録として残すのと同時に、作家には「あとで、その人の財産になるのではないか」という願いが込められている。
ウェブでのアーカイヴを紐解けば、画廊史にはとどまらない現代美術の息吹と、営利から離れたところでこそ芽吹く「ものづくり」の風土を感じることができる。スタート当時の「一番いい場所に文化の場を」との精神が今に伝わる。
(取材/袴田智彦)
LIXILギャラリー(東京都中央区京橋3-6-18)
☎03-5250-6530
【開廊時間】 10:00~18:00
【関連リンク】 LIXILギャラリー
「新美術新聞」2012年6月21日号(第1283号)5面より