[フェイス21世紀] : 小林美佐子

2014年06月17日 13:02 カテゴリ:コラム

 

蠱惑するからだ こころの映し身

 

 

ナース服やメイド服など定番のコスプレ衣装に身を包み、幻想的な花園に遊ぶ少女たち。顔を見せぬ彼女たちの肢体は若く艶かしく、それが死の黒い影と強烈に対比する。ポップでありながら耽美的な、想像と妄想を掻き立てる画面だ。

 

銅版画とリトグラフの併用で異なるイメージを別々の和紙に刷る。それらを重ねて二層構造にし、最後に手彩色を施す。独特な風合いの画肌と不思議な奥ゆきが魅力だが、技法の併用があまり好まれない版画の世界においては「9割方の人はやらない、いわゆる邪道」だと笑う。

 

様々な技法に挑み、試行を繰り返して今のスタイルとなった。きっかけは女子美術大学の恩師・馬場章教授の若い頃の作品。実験的な作風に「自由で良いんだ」と背中を押された。在学中より発表を重ね、2009年には浜口陽三生誕百年銅版画大賞で準グランプリを受賞するなど、作家としての道を着実に歩む。

 

 

「深海」 2014年 53×72㎝ 銅版、リトグラフ、手彩色

 

「日常に潜む境界-覗く人-」 2012年 81×113㎝ 銅版、リトグラフ、手彩色

 

現在は同大学の美術教育専攻助手。版画教室の助手ではないので、工房を使えるのは生徒が帰った夜遅くからだ。自由ではあるが不安もある。昨年は煮詰まってしまい作品を作れなかった。しかし、作らずにいるよりも「手を動かし、その時々の思いを作品に込める」ことで、自分が上手く消化されると気付く。「今は作品が作りたくて仕方がないんです」。

 

「制服」を着ることによって個が埋没し記号化した少女たちは、現代文化に翻弄され、迎合して生きる私たちの姿でもある。その心にはどんな景色が広がっているのだろうと、7月の個展には「深海に射す光」と名を付けた。光を当てなければ見えない、心の奥底を表現する。そして聞いてみたい「あなたの心はどう?」と。彼女の問いかけに、私たちは何と答えるのだろう。

(取材/和田圭介)

 

 

小林美佐子(Kobayashi Misako)

 

1985年神奈川県生まれ。2005年女子美術大学入学。大学の授業で版画と出合い版画専攻へ進む。師は馬場章教授。初めて版画作品を発表した2008年のグループ展で作品が評価され、2009年にバングラデシュのダッカで個展を開催。以降も個展やグループ展を中心に活動。主な受賞に浜口陽三生誕百年銅版画大賞準グランプリ、第11回浜松市美術館版画大賞展奨励賞など。2011年女子美術大学大学院美術研究科版画領域修了。現在は女子美術大学美術教育専攻の助手を務める。今後は「小林美佐子 個展」6月11日~7月7日(台湾・金魚空間)、「小林美佐子展 深海に射す光」7月14日~26日(銀座・シロタ画廊)、「ART OSAKA2014(乙画廊ブース)」7月11日~13日

 

【関連リンク】 シロタ画廊

 

新美術新聞2014年6月1日号(第1345号)5面より

 


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