[画材考] 青木洋介 : 造形に万能な素材‐漆‐

2014年09月17日 16:07 カテゴリ:コラム

 

造形に万能な素材‐漆‐

 

私は昆虫や動物をモチーフに、有機的な形の立体を制作しています。表現に使う材料は漆です。完成するまでに色々な道具や材料を使いますが、やはり重要なのは漆です。

 

漆は温度と湿度で硬化します。採取した場所や季節によって性質が違い、硬化の仕方も変化します。木の樹液、つまり「生モノ」なので古くなると傷んだ臭いがしますし、硬化も悪くなります。ご存じのとおり皮膚に付くとかぶれます。かぶれると気持ちも落ち込みます。本当に扱いが難しく嫌になる事もありますが、この材料で造形をしているのは、完成した時の漆の輝きに他の材料では表現出来ない美しさがあるからです。

 

美しさの他に漆の優れている所は2つあります。1つは強力な接着剤、もう1つは堅牢な塗料であることです。「漆って塗るだけじゃないの?」と仰る方もいると思いますが、漆にはその接着力を利用して形を造る乾漆という技法があります。

 

乾漆とは、まず粘土や石膏などの形がある物に麻布を添わせて漆で接着して硬化させます。そして布目の凹みに土と漆を混ぜ合わせた下地漆を擦り込み再び硬化させ、その工程を何度も繰り返し適度な厚みを造り、最終的に添わせていた物を取り除くと、漆と麻布と土で出来た2~3ミリの薄い皮膜で形が成り立ちます。とても時間を費やしますが、自由度の高い造形が可能な技法です。

 

漆は形を造るところから、絵を描く画材としてまで、全ての過程で主軸になってくれます。扱うのが難しく悩まされる事も多々ありますが、他の素材では出来ない美しさと万能さが制作を続けていける理由です。

 

 

青木洋介 (あおき・ようすけ)

漆造形作家、東京藝術大学漆芸研究室非常勤講師。今後の主な発表予定は、「国際漆展・石川2014」(10月22日~11月3日、石川県政記念しいのき迎賓館の後、輪島に巡回)など。

 

「新美術新聞」2014年9月1日号(第1353号)5面より

 

 


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