地球の骨―炭酸カルシウム―
絵画、彫刻、工芸の分野を問わず、ものづくりを支える重要な要素の一つに材料があげられます。そして、その材料を生かすための技術が不可欠です。さらに発想の独創性や普遍性も求められるでしょう。絵画は古来より、美術において人の成せる技のうち最も技術や知性を必要とする表現手段として認知され、多くの技法書や理論書が著わされて来ました。また、アカデミーや美術学校における重要な柱として体系化された教育がなされてきました。
そのような実証的で科学的な合理に基づいた材料、技法の研究成果として、画材として有効なものについてはこれまでにほぼ周知されています。私は、なかでも地球環境の長い時間的サイクルの中で最も安定した材料として「炭酸カルシウム」をあげたいと思います。
ムードン、胡粉など産地、製法によって呼び方は様々ですが、絵具層の普遍的な美しさを支えてきたこの体質顔料こそが画材の主役のひとつです。私は油彩画から始めて、油彩とテンペラの混合技法を用いていた時期もありましたが、現在はアクリル絵具の活用も視野に入れて制作するため、吸収地の一つとして麻布に炭酸カルシウムとメディウムを主体とした地塗りを施しています。
大作を描くので炭カルはキロ単位で購入しています。この下地は吸収性のため上層にあらゆる絵具を塗布することを可能にし、下地としての強度のほか、絵画の平面性を強調した現代性をももたらしてくれるのです。
前田昌彦 (まえだ・まさひこ)
洋画家、国画会会員、金沢美術工芸大学理事長・学長。今後の発表予定は、「個の地平」(11月19日~25日、ジェイアール名古屋髙島屋)「みずいろの会」(2015年2月、松江・一畑百貨店)、「第21回北陸国展」(2月、石川県立美術館)、第89回国展(4月、国立新美術館)など。
「新美術新聞」2014年11月1日号(第1359号)5面より