セザンヌ二題
セザンヌの作品は、何度見ても新しい発見がある。しなしながら、サント・ヴィクトワール山の例を持ち出すまでもなく、同じテーマを繰り返し描いた作家だけに、回顧展でもない限り系統的に見ていくのは簡単ではない。
その意味で、メトロポリタン美術館でオープンした「セザンヌ夫人」展は、小粒ながら興味深い企画だ(会期11/19~2015.3/15)。
全部で29点あるという油彩による夫人の肖像画を23点集め、水彩・素描も20点ほど展観、スケッチブックも3冊入っている。
セザンヌの制作は、単なる写実ではなく時間をかけて対象を観察しつつ、部分々々の生成をにらみながら画面が作られていく。風景に比べれば対象との乖離は比較的少ないとはいえ、肖像のモデルはその間動かずにじっとしているのは至難の業だ。夫人でもなければモデルはなかなか務まらなかった、という。
ボストン美術館の赤い肘掛け椅子の夫人像などは図版でもよく知られているが、実物を見ると、なるほど人物の描写を押さえ込んで画面の生成が一人歩きしていく様子が、色彩や筆致の配置に如実に見えてくる。
今まで気付かなかったが、夫人のヘアスタイルは真ん中分けが定番。たしかに、ほとんどの夫人像が真ん中分けだが、ただ1点、メトロポリタン蔵の温室の夫人像では、分け目なしの三日月形に抽象化されて頭部は綺麗な楕円だ。造形優先の好例だろう。
ところで、一作家の作品を調べるのにカタログレゾネ(全作品目録)は欠かせない。ただし、作品を網羅して、作品データのみならず、展示歴、出版歴まで逐一調べた結果を掲載する、というのは時間と労力を考えただけでも気が遠くなる。しかも、出版となると費用がかかるだけではなく、完璧ということがありえないから、地道一筋の仕事ではある。
しかしながら、最近では、オンラインでの公開を前提にしたプロジェクトも出てきている。何より、随時更新して改訂や訂正のできるのが強みで、未知の作品を発掘するために、収集家からの作品審査を受け付けるサイトもある。
セザンヌもオンライン総目録があり、簡単な登録手続きで閲覧可能だ(www.cezannecatalogue.com)
。現在は油彩だけだが、確認されている夫人像29点に加えて、所在不明の1点も白黒で見ることができる。作品によっては、比較図版として水彩や素描も掲載されているし、他の作家との比較図版も入っているから勉強になる。
また、デジタル画像は中くらいの大きさだが、カーソルを動かすと部分の拡大が見られるように作られている。
このほかにも、主要作家では、ピカソ、ドーミエ、ゴーキー、イサム・ノグチ、リキテンスタインなどがオンライン目録になっている。URLは次の通り。
・picasso.shsu.edu/
・www.daumier-register.org/
・arshilegorkyfoundation.org/catalogue
・www.noguchi.org/research/catalogue
・www.imageduplicator.com/
(富井玲子)