[フェイス21世紀] : 押江千衣子

2015年02月01日 10:00 カテゴリ:コラム

 

生み出すよう 育てるよう

 

 

京都市立芸術大学大学院に在学中の1995年、美術批評家の中原佑介が当時ディレクターを務めていたINAXギャラリーで個展を開き、一躍東京のアートシーンに躍り出た。オイルパステルを指で伸ばして描くという独特な手法で表された、ヨウシュヤマゴボウなど野辺の草花。言うなれば「道端の雑草」であるそれらに眼差しを向けて、豊潤な色彩でみずみずしく表現した作品は高い評価を受け、翌年には早くもVOCA展に出品。受賞こそ叶わなかったが、選考委員である高階秀爾の「惜しかった」という言葉に励まされた。

 

同展に同じく出品していた小林孝亘は、早くから注目してくれていた一人。98年には西村画廊の所属作家となる。そして2001年、再度出品したVOCA展で見事「VOCA賞」を受賞。タカシマヤ美術賞、京都市芸術新人賞も受賞したこの年を契機にして、着実に活躍の場を広げてきた。

 

下書きはせず、「キャンバスの上で大切に育てていくように」オイルパステルをぬり込んでいく。画面の余白は、完成した後も成長していって欲しいという思いの表れだ。2011年に長女を出産し、育児を通じて「育てる」というイメージがより明確になった。制作と育児の両立は大変だが、作品を見て「これも、これも、これもぜーんぶ好き」と笑ってくれる娘の存在は大きな原動力にもなっている。

 

 

7年振りとなる西村画廊での新作展には、家庭菜園で育てている野菜をモチーフとした新作を出す。四方八方に広がる玉ねぎのひげ根に、放っておいたら伸びてきたというねぎ坊主。「こんなものを描いていいのだろうか、というものを、やはり描いてしまう」と笑うが、ささやかな営みへの澄んだ眼差しは、20年前から変わらない魅力だ。心にすっと入ってくるような、優しく親しみに満ちた作品が集う展覧会。間もなくである。

 

押江 千衣子 (Chieko Oshie)

1969年大阪府生まれ。1995年京都市立芸術大学大学院修了。同年の京橋・INAXギャラリー(現 LIXILギャラリー)での個展で注目を集め、2001年にタカシマヤ美術賞、「VOCA展2001」VOCA賞、京都市芸術新人賞を受賞。以降、所属する西村画廊での発表を中心に、各地の展覧会で発表を重ねる。2003年より2年間、文化庁新進芸術家海外留学制度でベルギー・ブリュッセルに留学。2008年には大原美術館のアーティスト・イン・レジデンス・プログラム「ARKO」に招聘され、滞在制作を行った。現在、京都工芸繊維大学非常勤講師。約7年振りとなる西村画廊での新作展は、2月4日(水)から3月7日(土)まで開催。

 

(取材/和田圭介)

 

【関連リンク】 西村画廊

 


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