はるかな記憶を取り戻して―
今年の白日会展で、初入選から6年目にして文部科学大臣賞を受賞した。受賞作「風のない子」は、淀んだ水面にたゆたう男の像。舞踏家の夫・田中誠司をモデルにしたものだ。虚実が反転したような朧々とした画面。重い色彩の中、鮮やかに浮き立つ肌の色が、妖しくも美しい。展示室の中でひと際異彩を放つ表現だが、それが評価されたことに「白日会の懐の深さを感じました」と喜ぶ。
大学を卒業後、高校の講師を経て、2008年より生島浩に師事。和歌山から大阪の研究所に7年通い、徹底的に色と構成を教わった。師を一言で表せば「人間くさい人」。話すことは「9割が冗談」だったが、そうした冗談の中に、しばしば核心を突いた言葉があった。「1、2年経って、ふと言葉の意味に気付かされる。先生の指導には“感動”がありました」。
現在は、田中のスタジオがある奈良で制作を続ける。舞踏を通じて、自身の根源にあるものに触れた。それは遠い遠い過去の記憶。心の奥底に澱のように沈んだ、いわば「魂の記憶」だ。その記憶を取り戻し、絵筆に託して描き出すこと。それが、今の自分にとっての絵画なのだと語る。
4月の個展『郷にこがね翅 あけの華』では、記憶をテーマとしたひとつの物語を、自らのルーツである和歌山の風土に重ねて描いた。幼い蛾が、心の中にある風景を求めて命の火を灯し続ける物語。美しくも残酷な生命の営みを丁寧に表現し、人々を魅了した。
最近、人は大きな流れの中に生きているのだと感じるようになった。この流れの先で、自然に描きたいものと出会うのだろう。「それがいつなのかは分かりません。だからこそ、私は描き続けます」。
(取材・撮影:和田圭介)
阪東佳代 (Kayo Bandoh)
1982年和歌山県生まれ。2008より大阪の生島絵画研究所で生島浩に師事する。白日会展には、第86回展(2010)で初入選。以降、第88回展(2012)でオンワードギャラリー賞、白日会創立90周年記念展(2014)で富田賞・準会員奨励賞(同年会員推挙)、第91回展(2015)で文部科学大臣賞を受賞。初個展は、2013年のアートフェア東京(春風洞画廊ブース)にて。今年は3
月にアートフェア東京2015(春風洞画廊ブース)、4月に春風洞画廊で個展を開催している。
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