富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] : 新装ホイットニー

2015年05月24日 10:00 カテゴリ:コラム

 

新装ホイットニー

 

ハイラインから見た新装ホイットニー美術館の外観

 

5月1日、ハドソン川沿いのダウンタウンに、ホイットニー美術館がレンゾ・ピアノの建築で新装オープンした。

 

VIPのみならずアーティストをも招いての盛大なパーティ、予約制の報道内覧、そして大統領夫人とNY市長を迎えての開館セレモニー。くわえてオープン2日目の土曜日には全館を入場無料で開放、美術館前の路上でブロック・パーティを開催するなど、NY美術界の一大イベントの観があった。

 

ほぼ2週間たった5月中旬の現在、観光客などが週日でも数多く訪れ、入場待ちの行列も続いている状況だ(オンラインvisit.whitney.org/ticketsで事前に入場券を購入するのは時間節約の一法だろう。)

 

さて、新装開館のお祭り騒ぎもさることながら、真の〈事件〉は、美術館の中身のほうだ。「アメリカを見るのは難しい」と題した収蔵品展は、5階から8階の展示スペース全部を使った渾身の企画。20世紀から現在にいたるアメリカの美術とは何だったのか。この問いに真正面から取り組んだ作品選択にはうなってしまう。

 

(なお同館の歴史にちなんだ無料の1階小展示も秀逸で見逃せない)。

 

アシュカン・スクールからスティーグリッツ・サークル、プレシジョニズム、リージョナリズム、抽象表現主義、ポップ、ミニマル、そしてポストモダンへとつづく大筋自体はそのままだとは言えるのだが、それぞれの動向やイズムへの視座が抜本的に問い直され、歴史の手触りが大胆に作りかえられている。

 

このことは、女性作家の占める比率の飛躍的向上(ほぼ3割)にもあらわれている。またベトナム戦争をめぐるコーナーに見られるように、写真、またポスターや版画などのグラフィック作品を多用して時代的な文脈を示すと同時にメディアの多様性を見せる展示戦略も指摘できる。

 

女性作家3人の作品が並ぶ。左からルイーズ・ネヴェルソン、リー・ボンテクー、ジェイ・デフィオ

 

ただ、それは従来のホイットニーが批判されて来た政治性の偏重ではない。たとえば、エイズ危機に触発された作品群を見ても、直截な批判性に終始するのではなく、人間性のレベルでも表現が成立しているわけで、そもそも美術作品自体がアメリカという社会の中に息づいているのだ、との認識が痛いほどに伝わってくる。

 

館内は、作品展示を第一に考えた設計。天井高が適度で、テラスの外部空間や自然光を生かしつつ、アンティームな内部をも演出して、多角的な展示が可能になっている。そんな中で、金銀を多用してデコなポロックのカンバスに、アルフォンゾ・オソリオのオールオーバーの抽象を併置したり、美容整形の広告を下敷きにしたウォーホルのぶっきらぼうな「前と後」とアレックス・カッツのゴージャスな「赤い微笑み」を呼応させたり、キュレーターの審美的配慮もふんだんにちりばめられている。

 

一番びっくりしたのは、移民してカリフォルニア大学で教鞭をとった小圃千浦の新版画が8点並んでいたことだろうか。日系作家のロジャー・シモムラあたりならホイットニーでなくとも見慣れているが、アップタウンの旧館ではありえなかった作品選択の一つだろう。

(富井玲子)

 

ポロックのドリップ絵画(右)とアルフォンゾ・オソリオ

 

小圃千浦の木版画も注目を集めている(すべて筆者撮影)

 

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