森美術館で開催したリー・ミンウェイとその関係展が台北に巡回し(台北市立美術館)、開幕式に出席するために台北を訪問した。この展覧会は昨年(2014年)9月から、今年(2015年)の1月初旬まで開催されたリー・ミンウェイという中堅作家の個展である。彼の作風は、常に観客の参加、それもかなり能動的な参加を前提にしたもので、この10年ほど美術業界で話題になっている「関係性の美学」のアジアにおける好例ということで、取り上げた経緯がある。
ところで基本的に森美術館は自館の展示が他館に巡回することには積極的である。巡回すると手間は増えるし、共通経費を分担してもらっても、実は金銭的にも大してメリットがあるわけでもない。しかし、こうした活動を活発に行うことが、美術館のパブリシティーにもなるし、個人の枠を超えたネットワークの構築にもつながると考えている。
開会式には、先方のまだ就任してから一カ月しか経っていない新しい館長リン・ピン女史、市政府の文化局長、森美術館の担当者片岡真実、私などが参加し、それぞれ挨拶のスピーチをした。ミンウェイは台湾で決して超有名というわけではない。それを外国の美術館がいち早く取り上げて評価するということは、いったいどういう意味があるのだろうか。おそらく台湾の美術業界では様々な論議を呼び起こしているに違いない。これはグローバルとローカルといった文化論に加えてもいい一つの議題ではないだろうか。
さて一方、6月12日からは東雲のTolot というオルタナティブスペースで、インドネシアのハンディウィルマン・サプトラというアーティストの個展を開催する。この作家は私が2005年にジャカルタで初めて個展を見て、2006年のシンガポール・ビエンナーレに招待した作家で、素材の扱い方、その組み見合わせていくボキャブラリーの豊富さなどで、大変才能がある。展覧会はインドネシアの有志による企画で、国よりも先にアート振興をリードする民間の力を感じる。日本も、国に頼るだけでなく、民間が自前でやるべきことをやっていく意志を持ってもいいのではないか。東京のアートマーケットは弱いと言われながら、アジアの国々から見ると、やはり一つの情報と文化の一大中心である。ここで展覧会をやりたいと思われているのは悪くない。
さて日本は、文化大国である。しかし文化というと、みんな奈良と京都、伝統美術を思い浮かべる。それはそれで重要なのだが、数十年後に古典となる可能性を持つ新しい表現も重要だ。今の日本は、むしろ現代美術やデザイン、建築、ファッションなどが極めて活発で、アジアにおける創造都市のトップにあるというイメージを発信するべきではないか。新しい文化の創造を世界の人たちと一緒にやっていこう、成果を分け合おうと。
そもそも大量生産経済の時代が終わって、今、日本は広い意味での創造産業を発信しなければならないのだ。実際、東京には想像以上に多くの外人が、新しい文化、芸術、技術、要するにクリエーションとイノヴェーションを学びに来ているのだ。だったらその方向をもっと促進するべきなのではないか。一昨年から始めた六本木ヒルズのイノヴェーティブ・シティー・フォーラムも、まさにそんな考えから始まった国際的なフォーラムである。今年は、デザインの再定義というテーマを掲げて10月に開催される予定だ。オリンピックに向けてこうした試みにももっと拍車がかかればいいと思う。
(森美術館館長)
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