黒の余白に込めたもの
吸い込まれるような黒の背景に鮮やかに浮き上がる少女や風景―それは夢の世界か、はたまた記憶の断片か。 福岡を拠点に活動する田中千智は、国内外の展覧会や国際交流事業への参加など、近年目覚ましい活躍を見せる新鋭の画家だ。愛らしくもどこか寂しげ。様々な印象を与える画面は、一見して彼女のものと分かる。
アクリルによる黒一面の背景に油彩でモチーフを描く今の画風になったのは、2008年頃から。それまでは「言ってしまえば何の特徴もない絵」を描いていたという。多摩美術大学で学んだものの東京の水が合わず、05年の卒業後に実家のある福岡に戻る。絵をやめることも考えたが「30歳までに芽が出なかったら諦めよう」と、知り合いの喫茶店や貸しホールで地道に展示を行いながら、他に埋もれぬ特徴のある画面を模索した。元来、描き込むのは性分に合わず「背景を描くのも嫌だった」。ここで何か出来ないか。ふとした考えが、想像力を喚起する「黒の余白」につながった。
最近では、書籍の装丁画や映画やCD、演劇のビジュアルなども手掛ける。「私以外の人が考えたプロットに、イメージした絵を合せるという協同作業がとても面白いです」。忙しいが、興味は広がるばかり。「次は切手をやってみたい」と笑顔を見せる。
一方で、10月に横浜市民ギャラリーで開催する個展を「I am a Painter」と銘打つなど、自分は「画家」なのだという強い自負もある。「やると決めたとは言え、過酷でした」と言う120号、130号の15連作に取り組んだのも、画家としての矜持の表れだろう。自然体で穏やかな佇まい、しかし、その内にある意志は堅固だ。これまでの活動の中でも最大規模の展覧会となる。大きな期待とともに開催を待ちたい。
(取材・撮影:和田圭介)
田中 千智 (Chisato Tanaka)
1980年福岡県出身。中学時代に油彩を始め、九州産業大学付属九州高校デザイン科を卒業後、多摩美術大学絵画学科油画科に入学。小泉俊己や辰野登恵子、堀浩哉、安斎重男らに教えを受ける。05年の卒業後は福岡を拠点に活動。2010年の「ART AWARD NEXT #1」で青年会賞を受賞。村越画廊、小林画廊の取扱いとなり、アートフェア東京をはじめ国内外のアートフェアに出品。そのほか、12年「VOCA展2012」や「第5回福岡アジア美術トリエンナーレ」等展覧会多数。
ニューアート展 NEXT 2015 田中千智展 I am a Painter
【会期】2015年10月2日(金)~10月18日(日)
【会場】横浜市民ギャラリー 展示室1、B1(横浜市西区宮崎町26-1)
【TEL】045-315-2828
【休館】会期中無休
【開館】10:00~18:00(入場は17:30まで)
【料金】無料
■関連イベント
林 正樹 ピアノライブ“夜のピアノと夜の絵たち”
【日時】10月4日(日) 19:00~20:30(18:30開場)
【会場】横浜市民ギャラリー 展示室B1
【出演】林 正樹
【チケット】前売1,500円 / 当日2,000円(自由席)
【発売窓口】横浜市民ギャラリー4階事務室(TEL:045-315-2828)
「アーティストトーク」 参加無料、申込不要
【日時】10月3日(土) 15:30~
【会場】横浜市民ギャラリー 4階アトリエ
【出演】田中千智
【ゲスト】山野真悟(黄金町バザール ディレクター)
「担当学芸員によるギャラリートーク」 参加無料、申込不要
【日時】10月11日(日)、10月17日(土) 14:00~
【会場】横浜市民ギャラリー 展示室1
■横浜市民ギャラリー×黄金町関連事業
黄金町バザール 2015
田中千智が2008年の黄金町バザールで制作した「107人のポートレート」の一部を黄金町で再展示。
【会期】10月1日(木)~11月3日(火・祝)
【会場】京急線「日ノ出町駅」から「黄金町駅」周辺の店舗約20店
【関連リンク】TANAKA CHISATO / 横浜市民ギャラリー