概して、西洋文化圏ではハイとロウの区別、つまり高級芸術(ハイ・アート)と低級文化(ロウ・カルチャー)の区別がはっきりしている。たとえば、テレビは低級、絵画やアートは高級、という見方である。
アメリカも例外ではないが、テレビの歴史をひもとけば、テレビにとってアートは利用価値が高かった。その歴史を考えたのがジューイッシュ・ミュージアムの「目の革命―モダン・アートとアメリカにおけるテレビの誕生」である(9月27日まで)。
ここでいうモダン・アートは、戦前のダダやシュルレアリスム、戦後の現代美術など前衛美術のこと。考えてみれば〈視覚〉をめぐる実験が前衛の身上だったのだから、後発のテレビがアートから学んだとしても不思議はない。
だから、視覚=眼をロゴとするCBS関連の展示が本展の最初に位置するのもうなずける。特に、宇宙や人間心理の不思議など、未知の世界をテーマにした「トワイライト・ゾーン」は、デュシャンの《ロトレリーフ》をタイトルに使ったり、ダダ映画の前衛手法からの借用やシュールなイメージが頻出して、メディアの浸透性を感じさせる(CBSが1959-64年に放映した同番組は、日本では「ミステリー・ゾーン」の題名で放映)。
一方で、1952-55年にはテレビを使ってアートへの理解と関心を高めようと、MoMAが「テレビジョン・プロジェクト」をたちあげ、主要ネットワークと協働してアートへの一般の理解を深め、同時にテレビの質を向上させよう、という試みを行い、62年にはテレビ番組の展覧会も企画している。
もちろん、一般視聴者の好奇心をみたすべくテレビにはアーティストのインタビューや取材も取り入れられたわけだが、中にはクイズ番組での紹介もあった。たとえば、ダリが「What’s My Line」(私の職業は何?)に登場したり、「I’ve Got a Secret」(私の秘密)でジョン・ケージがオブジェ演奏をしている(goo.gl/s1fVBt)。
これらの番組の抜粋もモニターをふんだんに使って展示されているが、面白かったのは1966‐68年に放映された「バットマン」だ。コミックよろしく「POW」とか「BANG」とか格闘の擬態語が画面にでかでかと出てくる。漫画の表現をそのまま絵画にしたリキテンスタインみたいだな、と思ったら、何とテレビが美術作品の真似をしたのだ、という。
似たようなことは、オプ・アートの表現を取り入れたコダックのCM、オプやミニマルアートの様式をステージデザインやタイトルに使った「エド・サリバン・ショウ」などにも見られ、裏を返せばハイ・アート自体がファッション化した状況もあったわけだ(goo.gl/EAbfZQ)。
ナムジュン・パイクにはテレビ放送の作品もあるが、むしろ機械やオブジェとしてのテレビに関心が高かった。逆に「誰でも15分間有名になれる」とうそぶいて一般の認知度も高かったウォホールはコメディー番組や広告に登場し、様々な形でテレビの実験をしている。