日本にも崇拝する人が少なくないフランスの建築家ル・コルビュジエは画家、彫刻家、思想家といった多彩な顔を持つ総合芸術家だった。日本では近代建築の父として崇められているが、伝統的様式の建造物がひしめくフランスにおいて彼の挑戦とはなんだったのかは、再考する価値がある。
フランスでは今、世界の建築史に名を刻んだル・コルビュジエに関する展覧会が2つ開催されている。一つはポンピドゥーセンターの「ル・コルビュジエ 人体寸法」展(8月3日まで)、もう一つはパリのサンジェルマンデプレのズロトウスキー画廊で開催中の「ル・コルビュジエ 仕事のパノラマ」展(7月25日まで)だ。
ポンピドゥーセンターの展覧会では、ル・コルビュジエのインスピレーションの源となったダンス理論や絵画、彫刻、建築、デザインなど300点に上る作品が展示されている。コルビュジエ建築の発想の基本的思想ともいうべき人体の寸法と黄金比を基準とした彼独自の建造物の寸法「モデュロール」への理解を深める事ができる。
ル・コルビュジエのモデュロールは、20世紀初頭まで建築の基本をなしていた居住概念を覆すものであり、日本の近代建築を学んだ建築家に多大な影響を与えた。ただ、その理論は建築が工学部系ではなく芸術系に属するフランスにおいては、当時の芸術状況とも深く関係していたことは見逃せない。
ル・コルビュジエの日常生活は、午前中はアトリエで美術制作をし、午後は建築事務所で仕事をするという毎日だった。その意味で総合芸術家だったことが伺える。ポンピドゥーの展示には大作が多く、美術と建築の密接な関係を垣間見ることができる。
一方、ズロトウスキー画廊の展示では、コラージュの小品、壁紙にデッサンや水彩を施した作品が多く、ル・コルビュジエの美的感覚を知るヒントになりそうだ。美術学校で正式に建築を学んだことのない彼は「住宅は、住むための機械である」と言い放ち、生涯、装飾性を徹底的に排した作品を作り続けた。
当時彼が出会い、共感したフランスの前衛芸術家たちの影響も大きかったが、産業化社会の本格的到来、科学的理論が力を持った時代でもあった。フランスでも新しい建築物にル・コルビュジエの影は明確に見て取れるが、21世紀に入ると彼の建築がオスマン様式の古い建築物より短命である事実も突きつけられている。
(レンヌ上級商科大学常任講師/在パリ)
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