アートがグローバル化するなか、日本だけではなく東欧や南米の戦後美術も関心を集めている。地の利もあいまってニューヨークでは南米作家の存在は身近ですらある。
その好例は、現在MoMAで開催中の館蔵品による特別展「トランスミッションズ」だ。時代を1960‐80年に設定。実際のコネクションがあったり、回顧して並行関係のある作家を紹介、その作品300点近くを展観している(会期は来年1/3まで)。
同館の国際美術への取り組みは50年代から進んでいたが、最近の収集や調査はC-MAP(コンテンポラリー・モダン・アート・パースペクティブズ)という館内研究会を主体に進められている。外からは分かりにくいが、その存在は館外の専門家も寄稿者に名を連ねる「ポスト」というオンライン出版に見ることが出来る。ポータルのURLは、http://post.at.moma.org/。
同展の場合、カタログは出版されていないが、同展のURLからポストへのリンクが貼られていて(http://goo.gl/J3ler5)、メキシコのメール・アートについてのエッセイや、「ポップ・アートは毒だ」と喝破するシウド・メイレリスのビデオインタビューなど、これまでに公開されてきたテキスト、画像、資料などにアクセスできる。
考えみれば、館蔵品にまつわる調査を公開するにはインターネットのような流動性の高いメディアを巧く使って情報発信することは必要だし、受け取る方もグローバルなリーチのあることがうれしい。
美術館が紙媒体の出版をオンラインで拡充しているとすれば、商業画廊が積極的にカタログ出版を手がける例は増えている。しかも、画廊の宣伝用ツールという域をこえて、研究や調査の成果も盛り込んだ内容は、美術館の予算では不可能な豪華出版ともいえる。
筆者も、今年初頭の白髪一雄の商業画廊でのダブル個展(ドミニク・レビーとムヌーチン)の出版に参加した。作家のスクラップブックを全頁ファクシミリで掲載するレビーのモノグラフなど、資本力を投入したプロジェクトは、学者も顔負けで手抜きはもってのほか、こちらも新しい知見を出していく意欲がわいてくる。
そのドミニク・レビーでは、MoMA展にも出品されている女性作家ゲゴの個展を開催中(会期は10/24まで)。ドイツ生まれで建築を学んだ後、ベネズエラに移住。線を多用した立体は、独特の空間の詩学をかもし出す。
NYとも縁が深く、ベティ・パーソンズ画廊での1971年の個展で発表した立体の大作シリーズ《Chorros》の全点を美術館などから借り出したのが今回の展観。針金だけをつなぎあわせた線の束は、さながら滝のように天井から流れ落ちる。くわえて、カラフルに糸などを使った初期の小品は愛らしく、ドローイングからは作品構想の背後にある作家の思考が垣間見える。ゲゴ財団の全面協力を得て出版したカタログには1971年展にまつわるアーカイブ資料も掲載されて充実度は高い。
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