11月にCIMAMの年次総会が訪日し、会議を開催(2015年11月7日~9日)する。これは現在、森美術館の片岡真実が同組織の理事となっており、総会を是非日本でという機運が生まれて実現することになったものだ。ただし受け入れは日本の美術業界全体で、という意味も込めて実行委員会を形成し、文化庁、美術館連絡協議会、全国美術館会議、ICOM日本委員会、日本博物館協会などが協力している。また会場には国立近代美術館や国立新美術館もホスト館として名を連ねる。
もともとCIMAMは、ヨーロッパの現代美術のキュレーターが50~60年代に、現代美術を振興しようとしても理解されずに苦労していた美術館のキュレーターや館長などが、互いに助け合おうと集まって始まった互助組織だった。それが時代の流れとともに発展し、その後ICOMに所属し、ICOMの中でも最も勢力の強い分科会の位置づけとなった。私自身は1985年にデュッセルドルフのクンストハーレのユルゲン・ハルテン館長の推薦でどんな会なのか分からずに会員になった。今回からは、ICOMと縁を切って独立した組織としてやっていくことになったというが、そのような決断には隔世の感がある。
1994年には90年代に理事をやっていた原美術館の原俊夫氏の呼びかけで、日本招致が行われ、このときに私が事務局長となって、およそ100人の会員の訪日(1994)が実現した。そのときには東京青山のスパイラルが会場となり、出来たばかりの直島にも中枢メンバー20人ほどが訪問している。また後日しっかりした記録集を出版し、そこには、苦労して起草した「東京宣言」も掲載されている。2000年前後に、私は台頭してきたアジアの美術館のメンバーで、アジア部会を作ろうと運動したことがあるが、殆ど同時期に、アジア美術館館長会議が創設されたのでこの話はうやむやになった。
さて、今回の総会には200人ほどが来日予定である。詳細な日程はウェブサイトを見ていただきたいが、もともと美術館の経営・運営上生じてきた会員の抱えている諸問題を議論する会員のための総会である。一般公開は行っていなかったが、今回は、希望者には、なるべく公開するという方向で開催された。そのために文化庁の支援で、CIMAM本部が決めたかなり高額な聴講料を、メンバー以外の観客には格安に提供することになった。
前回の総会は、カタールで開催されたが、そのときのテーマは「プライベートとパブリック」であった。このテーマを引き取るようにして、今回は全体として「美術館はいかにグローバルになれるのか」というテーマを掲げているが、セッションは3日間に別れ、それぞれ「美術館は今なお討論のための場なのか?」「モダニズムはどのようにグローバルに受容されてきたのか」「グローバル・オーディエンスはいるのか」というテーマがたてられている。これはグローバル化の前で、多様な美的観点の錯綜する状況に戸惑う美術館が、美術館の役割の再定義を試みる内容だとも言えるだろう。
このフォーラムの結果については、次回の新美術新聞で記事としてお読みいただければ良いかと思う。しかし、このテーマを見ても、文化多極主義の時代に、これまでの価値基準では対応できず、新たな価値基準を模索する特に欧米の美術館のとまどいが見える。ミッシェル・ウエルベックが「服従」で描いて見せたような、コペルニクス的価値転換が美学においても起こらないとは限らない。
特にアジアにいる我々が、この問題に自分なりの回答を持つべきではないだろうか。—誰が美を決めるのか?
(森美術館館長)
「新美術新聞」2015年10月21日号3面より転載