天衝く素朴の塔
観るものの肝を抜く
岡本太郎はその著書『今日の芸術』でこう問う。「時代を創造する者は誰か」と。今年、第15回岡本太郎現代芸術賞で岡本太郎賞を受賞した関口光太郎はこの問いに何と答えるだろう。
受賞作「感性ネジ」は5mをゆうに超える「べらぼう」な立体作品。東日本大震災で多くの意味あるものが失われる中、美術作品を生み出す意味に悩んだ。しかし「それでも作ることを諦めるわけにはいかない」との思いをものづくりの最小単位、ネジに込めている。
人々は作品のスケールにまず圧倒される。そして正体を確かめようと近づいて、更に打ちのめされる。それは古新聞やガムテープなど、どこにでもある見慣れた存在で出来ているのだ。小学生のときに両親に教わった「工作」の手法で創り上げられた「芸術」。その驚きが、面白さが人々の心を鷲摑みにする。「作品の展示とは自分の考えを一方的に聞いてもらう事なのだと思います。しかし、ただ聞いてもらうだけというのは申し訳ない。代わりに楽しんで笑ってもらいたい」。巨大な姿にこれでもかと散りばめられた様々なモチーフ。大人も子供も目を輝かせて見入る。これぞ純粋な表現、エンターテイメントとしての芸術だ。岡本太郎のイズムは関口の作品に確かに息づいている様に思える。
関口のデビューは2008年。06年の卒業制作「瞬間寺院」がデザイナー・三宅一生氏の興味を引き、同氏の企画展「XXIc.-21世紀人」展に最年少作家として参加。三宅氏は今も関口を温かく見守る。現在は私立の特別支援学校で教鞭を執りつつ、アーティストとして制作活動や各地でのワークショップを行う二足のわらじ生活。注目が増す中でも自らの道を飄々と生きている。
10月、関口は東京・青山の岡本太郎記念館で作品を展示する。岡本太郎の作品が支配するその空間の中でも、関口は変わらず我々の度肝を抜き、笑わせてくれるだろう。今からそれが楽しみでならない。
(取材/和田圭介)
プロフィール
1983 年群馬県前橋市生まれ。2006年多摩美術大学美術学部彫刻学科卒業。私立の特別支援学校に教師として勤務する傍ら、アーティストとして全国の美術館等でワークショップを開催している。2008年三宅一生ディレクション「XXIc.-21世紀人」展(21_21 DESIGN SIGHT、東京)に『明るい夜に出発だ』を出品。2012年『感性ネジ』が「第15回岡本太郎現代芸術賞」大賞を受賞。今秋、東京・青山の岡本太郎記念館にて作品を展示予定。
「新美術新聞」2012年6月1日号(第1281号)5面より