鉄との対話、熔かし紡がれたもの
「鉄」という素材に向き合いながら、その可能性と現在性を探究する金工作家・留守玲が金属との出会ったのは多摩美術大学の学部時代。「創造する仕事がしたい」という純粋な気持ちがありつつも、初めは金属自体には惹かれなかった。しかし制作で実際に触れる中で「素材が動く感覚」を覚え、「これからもずっと発見がある行為のような気がした」という。鉄には様々な性質があるが、素材とのやりとりに面白さを見出したことが現在の姿に繋がっている。
「制作過程のリズムが自分には合っているし、やっているうちに次々とやりたいことが見えてくる」。そう語る作品は、鉄の棒や鉄板を細い炎で熔断、熔接することで構成されており、どこか有機的で複雑な表情をたたえている。それは素材の質感を探り、親和性を高める中で、「それぞれの鉄の特性を最も活かせるフォルム=状態」を探り続ける努力の賜物だ。
その状態を結び付け、意図的に“状況”をつくりだすことを試みてきた。10月21日からは「鉄の置き物」と題した個展が日本橋髙島屋で始まったが、前述の「状況」と「置き物」は近い意味を持つのかもしれない。独自の技法によって生み出された成果物をあえて「置き物」として提示することで、その物自体の「ありよう」を改めて考察しようという意図がそこにはある。
今後について聞くと「自分は歴史の末端にいて何をすべきかを考えるようになった。歴史を抱えつつ、未来に向かう仕事を現在性と捉えて良いのであれば、その現在で、いつも目の前の仕事に向かっていきたいと思っているとの答え。これからもひたむきに素材と対話を重ねていくことを確信させる言葉だ。
(取材・撮影:橋爪勇介)
留守玲(Rusu Aki)
1976年宮城県仙台市生まれ。2002年多摩美術大学大学院美術研究科修了。修士論文では批評家・小林秀雄と自身の作品の関係を論じた。04年財団法人日本文化藝術財団第11回日本現代藝術奨励賞受賞。これまでの主なグループ展に「工芸の力―21世紀の展望」(東京国立近代美術館工芸館、07年)、「第19回MOA岡田茂吉賞展」 (MOA美術館、14年)のほか、個展では「留守玲の茶室 さびのけしき」(山口県立萩美術館・浦上記念館、12年)など多数。パブリックコレクションは山口県立萩美術館・浦上記念館。現在多摩美術大学工芸学科非常勤講師。