展覧会を考えるときに、作品解釈や歴史理解が反映される展示内容も重要だが、展示の技術も見逃すことのできない要素である。
その点で、美術展だけではなく歴史系や自然史系の博物館の展示は「見せ方」を研究する上で非常に参考になる。とくにクリスマス・シーズンをはさんだ冬の期間は家族連れを意識した楽しめる展示が多い。ということで、ニューヨーク歴史協会に行ってみた。
おめあては「ゴサムのスーパーヒーローたち」展で、スパイダーマンやスーパーマンといったNYを舞台にしたコミックの主人公をテーマとした企画だった(2/21まで)。ただし「内容」にも「見せ方」にも特にめぼしいものはなかったが、ロビーを利用した「ホリデー急行―ジェルニ・コレクションの玩具と汽車」展には度肝を抜かれた(2/28まで)。
天井から特設ケースまで、所狭しと、ジオラマがいくつも設置され、おもちゃの汽車が走り回っていたからだ。同館所蔵のジェルニ・コレクションというのは、アンソニー・グリーンが収集した1850年代以降の欧米製玩具3万5千点からなるが、汽車だけでも1600組、駅舎も700点にのぼる世界最大の玩具コレクションだ。
無論のこと、精巧につくられたそれぞれの機関車や客車も見ていて飽きない。だが、山あり谷ありのジオラマに、動物や人物のフィギュアもあしらい「風景」を作った中に、アンティークの玩具をカタコトと走らせるダイナミックな展示は、いわゆる「鑑賞」ではなく、玩具本来のあり方を満喫させてくれるドリームランドだ。また、一番大きなジオラマでは、躪り口風の開口部を展示台の下に作りトンネルをくぐって展示の中に入り360度を見回せる仕掛けもあり、照明やサウンドとあいまって臨場感を演出する。
もう一つ興味深かったのは、NYにおけるコンピューター産業の展開を紹介する「シリコン・シティー」展(4/17まで)。1964年のNY万博で注目を集めたマルチメディア構成のIBM館が中心で、産業用メインフレームコンピューターから出発した同社の全面的協力を得るだけでなく、スポンサーにはグーグルがついて、ハイテクをテーマにした展覧会らしい。意外だったのは、真空管やトランジスターに混じって、AT&Tのベル研究所が協力したEAT(芸術と技術の実験)の《九つの夕べ──演劇と技術》が展示されていたことだ。
通常ならパフォーマンスの記録写真やモニター映像を並べるだろう。本展では、IBM館を意識したドームの内側に大型スクリーンを4面仕立て、中に入った人がアイパッドで操作して希望の作品を呼び出せるようになっている。しかも、異なる場面が4面のスクリーンに投影されるから、一つの作品をいわば立体的に見ることができる。本展の最初に上映されているIBM館のマルチスクリーン展示を応用したわけだ。無論、ビデオアート全盛の今日では特に新しくはないかもしれない。だが、それをパフォーマンス作品の記録映像に活用した点が斬新だった。
≫ 富井玲子 [現在通信 From NEW YORK] アーカイブ